平成30年5月8日(火)
詩集「測量船」:三好達治(69)
菊
北川冬彦君に
花ばかりがこの世で私に美しい。
窓に腰かけてゐる私の、ふとある時の私の純潔。
私の膝。私の手足。(飛行機が林を越える。)
――それから私の秘密。
秘密の花弁につつまれたあるひと時の私の純潔。
私の上を雲が流れる。私は楽しい。私は悲しくない。
しかしまた、やがて悲しみが私に帰ってくるだらう。
私には私の悲しみを防ぐすべがない。
私の悩みには理由がない。――それを私は知ってゐる。
花ばかりがこの世で私に美しい。
(つづく)
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