平成30年5月17日(木)
詩集「測量船」:三好達治(84)
獅子(1)
彼れ、獅子は見た、快適の午睡の果てに、――彼はそ
こに洗はれて、 深淵 の午後に、また月のやうに浮び上っ
た白磁の皿であった、―― 微 かに見開いた 睫毛 の間に、
汚臭に満された認識の裂きがたいこの約束、コンクリー
トの王座の上に腕を組む鉄柵のこの空間、彼の 楚囚 の王
国を、今そこに 漸 く明瞭する旧知の 檻 を、彼は見たので
ある。…… 巧緻 に 閃 めきながら、世に 最も軽快な、最も
奔放 な小さい一羽の天使が、羽ばたきながらそこを漂ひ
過ぎさるのを。……蝶は、たとへば影の海から 日向 の 沙
漠 へ、日向の砂浜から再び影の水そこへと、 翩翻 として、
現実の隙間に、季節と光線の 僅 かな 煌 めく彫刻を 施 しな
がら、一瞬から一瞬へ、偶然から偶然への、その 散策 の
途
すがらに、彼の檻の一隅をも訪れたのである。
(つづく)
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