平成30年5月19日(土)
詩集「測量船」:三好達治(86)
獅子(3)
しみじみとその厚ぼったい 蹠裏 に 機 む感覚 に耐へ、彼は
考へた。ああかの、彼の視覚に閃き、鉄柵の間から、 墜
ちんとして 夙 やく飛び去ったところのあの訪問者、あの
花の 如 き一瞬は何であったか? 彼の生命にまで 溌剌 た
りし、かの明瞭の啓示、晴天をよぎって早く消え去った、
かの輝やく情緒、それは今 自 らにまで、如何に解くべき
謎であらうか? そして思はず彼は、彼の思索の無力を
知って、ただ奇蹟の再び繰り返される周期にまで思慕を
よせた。けれどもその時、檻の前に歩みをとめた人々は
小手を 翳 して、彼の 憂鬱 の 徘徊 を眺めながら 囁 き交した。
(つづく)
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