詩集「バタフライ効果」(2)
著者:金指安行(下田市在住、著者の第三詩集)
発行:二○一八年十一月三十日
発行所:ルネッサンス・アイ
発売元:白順社
春先
空で震える
毛根のような枝々が
満遍なく陽を啜っている
枝という枝に薄紅のつぼみをまとい
やがて溢れでる
春の開花を
人々はその人生に
重ね合わそうと集まるのだが
樹は ただ
体液の命ずるままに
上げ潮のごとく満ちていくだけ
死ぬまで
一か所に繋がれていて
朽葉は土に
新しい気力は花へと…
そしてその後は僅かばかりの果実をかざして
鳥たちを待ち続けている
たとえそれが
人には耐えがたく思われようとも
命ある限り
よみがえるシジフォスの神話を
繰り返し
繰り返している静けさ
でも お前は
いったい 何時休めるのだろう…
冷たい風の中で
配達夫は焦っている
まだ終わらない まだ終われない…
もう菜の花も咲き始めたのに
蔵の中では少年が
いつ止むとも判らない同級の悪意を思って
ひとり悲しみに沈んでいる
春よ もう良いではないか
お前の清冽なシンバルの音を鳴らせ
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