詩集「バタフライ効果」(6)
著者:金指安行(下田市在住、著者の第三詩集)
発行:二○一八年十一月三十日
発行所:ルネッサンス・アイ
発売元:白順社
蝉の誘惑
時間になると
春ゼミが快い呪文のように裏山で鳴き出した
いつの間にか私は恍惚の状態になる
眠いのではない
何かを考えている訳でもないが
授業する先生の声が透明にかすんでいって
知らぬ間に見えなくなるのだ
窓から流れてくる涼しい風や
セミの声しかない窓の外の
ゆったりした初夏の時間が 私を誘う
お出でよ 外にお出で
(いつか、あの世に迎えられる時は
あんな誘われ方がいいよねえ…)
春ゼミがいつものように
私に催眠を仕掛けにきた
放心して ひとり微笑んでいる私の表情は
先生には阿呆のように写っただろう
こら、○○!
卓球のことばかり考えているんじゃない
間もなく禁断の実が
私にも用意されようとしていた
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