詩集「バタフライ効果」(12)
著者:金指安行(下田市在住、著者の第三詩集)
発行:二○一八年十一月三十日
発行所:ルネッサンス・アイ
発売元:白順社
不動
ある夏 戸隠の
忍者屋敷に出かけたことがあった
水平に走る廊下を
すたすたと歩いていくと
いきなり部屋が傾いて見えた
一瞬 私は目を疑った
歩いてきた廊下と
肉眼では斜めにしか見えない部屋との
日常では考えられない
線の落差
はじめから
座敷だけは斜めに造られていたのだが
廊下も部屋も水平なものと信じているから
一瞬 足が 竦 んだのだ
その思わぬ線の歪みは
私にひとつの映像を思い出させた
月の平面に
今しも翡翠色の地球が昇ってくる
見たこともない人の魂が
ゆっくり昇って来たかのように
月から見れば
地球の自転は一目瞭然
だが私たちは
この星も太陽を巡っているのだと知りながら
いつの間にか信じているのだ
不動という幻影を
今は秋
澄み切った蒼空のもと
今しも重心を操りながら
海を渡っていくサーファーがいる
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