今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

今日の気持ちを短歌におよび短歌鑑賞

2019.03.22
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詩集「バタフライ効果」(23)

著者:金指安行(下田市在住、著者の第三詩集)

発行:二○一八年十一月三十日

発行所:ルネッサンス・アイ

発売元:白順社

よく見ると白っぽい崖の肌の

点々とした黒い模様は休んでいる雁の群だ

呼び交すひと声とて無い

垢のように積もった痛み

一身に追い払おうと

一羽一羽おとなしく自分に戻っているのだった

ひときわ白波の音が近づき

崖の向こうの冷たい空が

海辺の侘しさを押し広げている

また彼らは腕を組んで

玉のような汗にまみれ

一散に北を目指してこの夕空を戻るのだろう

V字形の態勢を組み

次々先頭を引き継ぎながら

住み着いているカラス一羽

馬鹿にのんびりと過ぎていく夕べ

六十年前の

新生児取り違え事件が今報道されている

よその親とも知らずに

病院で入れ替えられた二人

初老を迎える今になって

自分のルーツを知らされている

幸か不幸か

二人とも両親は亡くなったという

囲炉裏端で

父が話したことがあった

(私は三歳で父を亡くした

写真一枚あるわけでは無く

どんな顔をしていたのかもしらない)という

面影のない記憶の底に

どんな寂しさを抱えていたのか

郭公 ( かつこう ) は鶯の巣に 托卵 ( たくらん )

鶯は郭公の卵とも知らずに

温め ( かえ )

育てるという

自分の子供ではないと知っても

餌を欲しがって

口を開けば

つい与えてしまうのだと

鳥たちも血のつながりを願って傷つき

それでもなお

剥き出しのか弱い命に

つき動かされて生きていたのだ

訳の判らない取り違えを

一身に飲み込みながら

今日も飛び立っていく鳥の強さ

渋柿には甘柿の枝

そうとも知らずに一心に実を成してきた

その幻のような歳月






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最終更新日  2019.03.22 07:38:52
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