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当ブログでも何かの折に言及したが、今を去ること20数年前、ファミコンの普及を尻目に私が最初に手にしたのは富士通のFM-NEW7という8bitマイコンであった。当時のマイコンシーンにおいてはNEC製のPC-8801シリーズは主流であり、FMユーザーの私は同シリーズに対して羨望と妬みの感情こそあれ、思い入れはまったくないと言ってよい。それでも\2940という決して安くないお金を出して表題の書籍を購入した。理由は簡単。この書籍にはオマケが付いている。そのオマケというかむしろ書籍がオマケと言うべきだが、Windows用のPC88エミュレーターと、プレイできる13本のゲームが収録されたCD-ROMが付いているのである。収録ゲームは以下の通り。「ザ・ブラックオニキス」「ザ・ファイヤークリスタル」「ハイドライド」「同2」「同3」「スーパー大戦略」「アーコン」「うっでぃぽこ」「リグラス」「ドーム」「ハラキリ」「ファイナルゾーン」「刑事大打撃」の13本。書籍の内容はPC88伝説と銘打ちながら、当時のソフトメーカーゆかりの人物に対するインタビュー記事とゲームジャンル毎の解説と、付属ゲームの紹介、攻略の掲載とゲームに特化した内容になっている。まだすべての記事を精読したわけではないので詳述は避けるが、当時ハマっていたゲームに関する思い出が次々に喚起され、非常に懐かしい気分になった。付属のCD-ROMも早速自宅のパソコンにインストールしてタイトル画面だけはざっと見たのだが、エミュレーターだけあって当時とまったく同じ画面が再生されたのは感無量である。尤も、私の記憶にあるのは当然ながらFM版ではあるがw付属のCD-ROMは「プロジェクトEGG」が全面的に監修していると思われる。「プロジェクトEGG」とは、往年のレトロゲーム(マイコン中心)を月額料金とダウンロードで販売しているサイトであるが、すべて\1000以下とはいっても値ごろ感はなく、興味はあったのだがいまいち敷居が高く感じられて利用に踏み切れなかったものである。選択はできないとは言え、当時の名作ゲームが13本も収録されてこの値段ならば、当時を懐かしむことができる方は充分にモトが取れると思われる。また、マイコン時代を知らない若い世代の方も本誌にて詳しい解説と攻略が掲載されているので、プレイに際して何をしていいかわからないと途方にくれることもないだろう。本誌は今年3月の発売で、以前から関心があったものだが、中々見当たらず、先日たまたま行った本屋で発見して購入したものである。収録ゲームについて、リアルタイムでプレイしていたものは半分にも満たないが、簡単に解説をしておきます。「ザ・ブラックオニキス」→自他共に”国産初のRPG”と称しているが、多分間違い。光栄の「ダンジョン」である 等諸説あるがどれも定かではない。ま、ジャンル草創期であったことは間違いないし、 一番かどうかの議論にさほどの意味はないと思われる。 ”ウツロの町”を舞台にしたブラックオニキスのシリーズは、続編の「ザ・ファイヤー クリスタル」以降も続く予定であったが、三作目の「ムーンストーン」が結局未発売の まま、シリーズも終焉を迎えた。 極端に少ないメッセージとヒントであるが、HPや経験値を数字でなくバーで表現する等、 入門編として(当時としては)とっつきやすかったのは印象的。 上にも書いたが、最初からシリーズ化を想定しており、本作も「ウィザードリィ」の シナリオ#1”狂王の試練場”を意識していることは明白で、キャラクターを育成する ことに主眼が置かれている(オニキスまで辿りついた時のボーナスはキャラのレベル アップ)。 従ってシナリオ性は皆無に等しいと言える。 3Dダンジョンは手書きのマッピングが必須であるが、誌面攻略記事において全マップが 掲載されているので心配はいらない反面、当時を知る者としてはちょっと物足りないかも。 でも面倒なのは事実で、今更そこまでして遊ばなければならない理由もないのもまた事実。「ザ・ファイヤークリスタル」→”ウツロの町”内にある”テンプル”という施設内のシナリオが「ザ・ファイヤークリス タル」の舞台となる。 前作で育てたキャラクターは、”テンプル”の扉の前でセーブすることよって移動できる のである。 本作では更に複雑さを増したダンジョンに加えて、魔法の要素が追加された。 実は当時、私は本作を改造したキャラクターデータで遊ぼうとしたところ、不具合という か途中でおかしくなったので最後まで遊んでいない。 前作は家庭用ゲーム機に複数移植の実績があるが、本作は私が知る限りはない。 いずれにしてもベタ移植では少々つらい内容ではなかったかと思われる。「ハイドライド」→日本ファルコムの「ザナドゥ」に先駆けて発売されたアクションRPG。 美しいグラフィックとBGMに、ストーリー性を持たせたシナリオ等の要素で大ヒット作品 となった。 シナリオを進める為のアイテム探索と敵を倒してレベルアップするのがゲームのキモで ある。イメージ的には「ドルアーガの塔」に近く、後の「ゼルダの伝説」はこのゲーム の影響を色濃く受けたと言えるだろう。 当時のマイコン雑誌でもこぞって採り上げられ、攻略情報等にも事欠かなかったもので あるが、ヒントメッセージが少なく、情報なしではクリアは厳しいかもしれない。 私も当時ハマってプレイしたものだが、不思議と何回もプレイした記憶がない。 従って細部の記憶が余りないのは、ひょっとしたら後述の「同2」のせいかもしれない。「ハイドライド2」→発売当時は、大ヒット作の続編ということでそれなりに話題になったと記憶している。 かく言う私も予約までして手に入れた数少ないソフトであるが、実はクリアどころか 数回プレイしかけては挫折したという苦い過去がある。 「ハイドライド2」は、前作の実に6倍の広大なマップと様々な追加要素で大幅に ボリュームアップした内容になっている。 ところがこの追加要素がクセ者で、前作のとっつきやすさとはうって変わった不親切な 設計となっており、ヒントなしで何度も挑戦する気が失せたものであるが、この機会に 攻略を見ながら20年越しのクリアを目指すのもいいかもしれない。「アーコン」→「ザ・ブラックオニキス」を発売したメーカーであるBPSから発売されました。 見た目の非常に地味な印象とは裏腹、基本はチェスなのだが盤上で敵のユニットと接触 するとアクションゲームに切り替わる。 イメージは違うがSDガンダムのシリーズが同じ遺伝子なのではないだろうか。 それはともかく、これはシンプルな画面ながら今やっても充分面白いゲーム性は秀逸。 まさに名作と呼ぶにふさわしい作品である。 正直、これだけでもモトは取れるのではないだろうか。「リグラス」→森田和郎氏といえば、コンピュータ将棋のルーチン作成において第一人者であり、FC等 にも移植されているので名前くらいはご存知だと思われる。 本作はその森田和郎氏が手がけたアクションRPGで、その滑らかな動きが特徴的である。 …が、私はこのゲームも実は最後までプレイしていない。 何故といって特に理由も思い出せないし、実はここに収録されているのを見て初めてその 存在を思い出したくらいw 従って特筆すべき思い出もないのであります。「スーパー大戦略」→本作はFMでは発売されていません。 当時はシミュレーションゲームというよりもウォーゲームという呼称の方が一般的であり ました。 私は軍事マニアの友人に半ば強引に相手をさせられ、彼の部屋の床の大部分を占拠した 広大なマップ上で、一年近くかけてプレイしたことが思い出されます。 ボードゲームはボードゲームで、コンピュータのシミュレーションゲームとはまったく 違う味わいがあるのですが、プレイに至るハードルの低さから言えばコンピュータゲーム に如かないわけで、当時は88を横目で見ながら思いを馳せていたものです。 後にPCEのCD-ROMROMソフトで発売された本作は、リアルな戦闘画面と効果音に興奮し、 積年の無念を晴らすべくプレイしまくったものであります。 基本的に内容は同じですが、今でも充分遊べる内容だと思います。…というわけで当時私がプレイしたことのあるものについて簡単にコメントをつけましたがいかがだったでしょうか?当時を知る方もそうでない方も、日本のゲーム史を俯瞰した濃い内容の記事は読み応えがあると思いますので、興味のある方は是非手にとってみて下さい。お得です。 ↑こんなんもありました
Aug 4, 2006
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SF画家、加藤直之氏が世間一般にどれほど知名度があるのかはよく知らないのだが、最も人口に膾炙していると思われる作品が、アメリカSF作家の巨匠、ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』という作品の表紙および挿絵ではないかと推察する。これだけではピンとこないかも知れない。ハインラインの『宇宙の戦士』は1967年の初邦訳。日本のクリエイターにとっても多大なる影響をもたらされた作品であった。作品中に登場する”パワードスーツ”の概念こそ後の冨野由悠季の手になる『機動戦士ガンダム』のモビルスーツの原型であり、そのデザインを手がけたのが加藤直之氏である。『宇宙の戦士』は後に原題ママの『スターシップ・トゥルーパーズ』というタイトルでポール・バーホーベン監督により映画化されているが、こちらは全編バーホーベン節というか、ちょっとキツめのグロ映像が目白押しであり(でもバーホーベンにしちゃまだマシかな)何より肝心かなめの”パワードスーツ”が一切出てこないので、少々微妙な作品となっています。それはさておき、件の”パワードスーツ”所謂「強化服」のガジェットが、ガンダム以降いかに我々にとって日常的な概念として形成されているかと考えてみれば、これはもう現在も連綿と続くガンダムワールドの原初と言っても過言ではない。極論を言えば、この作品がなければ”モビルスーツ”というガジェットも存在し得なかったかも知れないということである。当時のその洗練されたイメージは、40年近い歳月を経た現在でも色あせることなく、非常に男心をくすぐるというか、メカフェチにはたまらないものであると言えます。本書はそんなパワードスーツの原画を始め、加藤直之氏がこだわり続けたSFに対する思いを垣間見ることができる一冊となっております。基本的には画集なのですが、それぞれに自叙伝的な解説が加えられていて、関心のある方にとっては読み物としても楽しめるかと思います。正直、判型と頁数から見れば値段的にはかなりキツいものがありますが、まぁこの手のモノはある程度は仕方ありませんね。そんなに需要があるものでもないでしょうし・・・。まだテキストは全部に目を通したわけではないのですが、氏の作品をじっくり眺めつつ、ボチボチ読んでいこうと思っております。あと、ゲームオタク的知識もついでに披瀝しちゃいますと、PCEのCDロムロム初期において、日本テレネットから発売された『レギオン』という横スクロールシューティングゲームがありまして、そのパッケージデザイン及び自機のデザインも加藤直之氏の手になるものであります。当時、雑誌広告にて一面にデカデカと一見してそれとわかる画を見た瞬間、「スゲェ」と思った私は即行で購入したものでありますが、中身はと言えばもう詐欺みたいにヘボくてすぐに放置した苦い記憶があります。この画集にも問題のパッケージおよび自機のデザインラフが収録されているのですが、それにも氏の解説が添えられておりまして、そこに非常に婉曲な表現でデザインの意図がプログラムの人間に伝わらなかった、見たいなことが書いてあり、あのゲームのできを見れば確かに文句のひとつも言いたくなるよな、と妙に納得したものであります。でも具体的にゲームに関わったお仕事ってこれ以降はあまりないような気がします。懲りたのかなw今の最新CG技術を駆使して、氏のデザインによるSF風味バリバリのシューティングゲームをプレイしてみたいと思うものでありますが、ムリだろうなw
Apr 25, 2006
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フランスの新進人気作家、セルジュ・ジョンクール作の新感覚ミステリー・・・という帯と、頁数が200余りと少ない故に安いという理由で衝動買いしたものです。正直”フランスの新進人気作家”などと謳われても予備知識はまったくありませんでしたので、純粋に中身だけの話となります。立て続けに大作ばかり読んでいたので、息抜きのつもりで読み始めましたが思いのほか面白く、一気に読めてしまいました。延べ時間にして2時間足らずでしょうか。遅読の私にしては非常に優秀です。・・・小島に佇む豪華な別荘にてヴァカンスに興じる裕福な家族。パリ祭に帰ってくる息子を待つばかりのところへ、息子の友人と称する闖入者が現れる。魅力的な容姿と物腰でたちまち家族に受け入れられる男。ただひとり、娘婿を除いて・・・。穏やかな別荘地の海の描写と得体の知れない男の不気味さのコントラストが際立ち、娘婿の男に対する侮蔑の念からパニックに近い恐怖、そして屈服までの心理描写の推移が生々しい。私は特に娘婿に非常に感情移入してしまい、不気味な男の圧迫感というか、この男に対する苛立ちが伝染したような感覚になりました。舞台といい、シチュエーションといい、アラン=ドロン主演の『太陽がいっぱい』のイメージに非常に近いと思います。不気味な男の富裕層に対するどす黒い憎悪と、それを意のままに操ることによって得られる満足感など、通じるところがあると思います。帰ってきた息子と娘婿との奇妙な連帯感が織り成すラストシーンには、意外性はないものの、後味の悪い安堵のようなものが感じられます。B級ホラーっぽいラストにしてもありだったんでしょうが、それだと余りに安っぽいものになったような気がします。全体では無駄な伏線が一切なく、新感覚ミステリーなどと書いてありますが、実際ミステリーの要素は皆無ですのでその向きにはあまりオススメはしません。ただ複雑な背景などはありませんから、前半少し読めば割とすんなり物語の中に入っていけると思います。傑作、とまでは言いませんが短時間で手軽に読めたので普通に満足しています。
Feb 10, 2006
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以前にも当ブログで書いたことがあるが、趣味の一環として読書も日常的に行っています。しかしながら元々読むスピードが遅いことと、病的な収集癖の所以で消化のペースが購入のペースにまったく追いついていないという現状であります。結果的に話題の書籍等をタイムリーに読むことはほとんどなく、大抵3~5年くらい遅れてというのが常態となっております。そんな中、比較的タイムリーに読めたのが標題の『ダ・ヴィンチ・コード』であります。本年5月の映画公開も決定しており、これ以上ないタイミングではないでしょうか?読んでから観るか観てから読むかは好みが別れることかと思いますが、私に関していえば特にこだわりはないです。そういう意味では今回はたまたまである、としか申し上げられません。さて、本についてですが我が国においてもかなりな長期間に渡ってベストセラーとなっていたので、内容はともかく名前くらいはご存知の方も多いのではないでしょうか。タイトルから受けた私の印象は、またぞろ陰謀ネタか?と思っておりましたが、実際はミステリーとサスペンスのエッセンスに、近代美術とキリスト教文化に関する膨大な薀蓄が加味されているといった感じでしょうか。一般に宗教観が薄いといった認識の我が国ですが、本質はともかく、キリスト教にまつわる文化としての土壌がないという点については如何ともし難く、生活感というかそれ自体が非日常的なもので、なじみにくかったという側面は否定できません。というよりむしろ、ある程度キリスト教文化や歴史、近代美術史などの素養があれば、もっと楽しめたのだろうな、とは思います。詳述は避けますが、絵画その他に秘められた暗号等が(当然のことではあるが)アルファベットのパズル的な要素が強く、~こうだというネタ明かしをされても、ハタと膝を叩くようなひらめきが感じられませんでした。多くは私の頭の悪さの所以なのでしょうが「こじつけじゃネーの?」などと思ってしまうあたり、翻訳の難しさというものもつぐつぐ感じました。上・下巻の二分冊なので一見ボリュームがありそうにも思うのですが、1ページあたりの文字数が少ないのでさほどのこともありません。一冊が¥1800もすることを勘案すれば、多少高くなっても一冊にまとめるべきであると思います。それはともかく、物語前半の風呂敷を広げる展開は、膨大な薀蓄が登場人物のセリフに含まれているにもかかわらず、非常にスピーディーで面白く、先へ先へとぐいぐい引っ張っられていきます。反面、後半に入るとミステリー色がやや弱まり、サスペンスに比重がかかるのですがもうこの頃になるとダ・ヴィンチがどうのこうの、という描写は皆無に等しくなります。正直最終的なオチはいまいちであったと言わざるを得ませんが、無数の薀蓄で多少頭が良くなったような気になるのでよしとしましょうw物語はあくまでフィクションですが、関連書籍にも興味深いものが多々あるので機会があれば読んでみたいと思います。
Jan 31, 2006
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これは私の主義なのですが、書籍にしても、ゲームにしても、映画にしても、お金を支払っていないものに関しては意見すべきではないと考えています。金額の多寡は問題ではありません。レンタルでも何でもいいですが、大事なことは”身銭をきる”ということです。例えば書籍の場合、公共サービスのひとつに図書館があります。図書館そのものの存在を否定するわけではありませんが、無料の貸本屋と化している昨今の状況には大いに疑問を抱いております。大仰に考えれば”人の手になる文化に対してお金を支払わなくてもよい”という土壌が蔓延するのは製作者の生活の基盤を奪い、ひいては文化そのものの衰退にも繋がる訳で、これは看過すべき問題ではありません。・・・前置きが長くなりました。私は本を読むスピードが遅いせいもあるのですが、持ち前の収集癖が災いし、読み終わらないうちに次から次へと購入するものですから自然書棚も溢れ返ることとなります。そんな有様を見た人は口を揃えて「処分すれば?」などと無責任な提案をするのですが、根が貧乏性の私は、物を捨てる、あるいは手放すということに関して非常な恐れを抱いており、それを世間一般では統失の一種と見る向きもありますが、実際そうかもと自覚はしております。そんな状況ですから、タイムリーな読書をすることは非常に稀で、大抵5年くらい前の作品を後追いで読むことになります。で、本当に今更、稀代のベストセラーとなった『世界の中心で、愛をさけぶ』を読みました。映画やドラマを見て、さすがに泣きはしませんでしたが、主人公が私の年齢に重なり、回想シーンのノスタルジックな雰囲気がツボにはまり、我知らず夢中になったものでした。勿論映画、ドラマ両方とも悲劇のヒロイン役の女優(長澤まさみ、綾瀬はるか)が魅力的だったという要因もあるのですが。実は原作に対して、私はあまり良い印象を持っていませんでした。理由のひとつが、安直なタイトルにあります。ご存知の方にはいわずもがなですが、このタイトルは一昔前にブームとなったアニメ、『新世紀エヴァンゲリオン』の最終回の副題が元ネタとなっております。更にいえば『エヴァンゲリオン』自体がコードウェイナー・スミスというSF作家の手になる”人類補完機構”シリーズをリスペクトした作品であり、元ネタの副題はハーラン・エリスンというSF作家の名作『世界の中心で愛を叫んだけもの』であることは知っている方は知っています。余談だが、今季のドラマで深田恭子主演の「幸せになりたい!」の劇中で、「世界の中心で~」を模したと思われる原作が登場するのだが、そのタイトルが「流れよわが涙、と少年は言った」となっており、これはSF作家フィリップ・K・ディックの『流れよわが涙、と警官は言った』が元ネタです・・・ってまんまじゃんwまた話が逸れてしまった・・・。細かい部分も含めて感想を。まず、主人公の年齢設定であるが、中学時代に「CDの貸し借りをして~」の件でまず引っかかりました。私の年代では中学時代は未だレコードが主流で、CDはさほど普及していません。読み進めていくうちに謎は解けます。2000?1?年に25歳になっている、という記述があり逆算すると主人公の生まれた年は1975年乃至6年ということになり、映画およびドラマとは異なっています。私が映像作品を支持していた要因は、年代の合致に拠るところが大きかったので、この時点でマイナスです。下らない理由と思われるでしょうが、私にとっては重要なことです。主人公は中学時代から相思相愛の仲で進行するわけですが、女性の立場からみればどうなのかわかりませんが、少なくとも私は主人公の”松本朔太郎”にまったく感情移入ができませんでした。朔太郎とアキのメルヘンチックな二人だけの世界についての延々とした描写はこそばゆいというよりもむしろ痛々しいバカップル(死語)のそれでした。その他の人物についての記述がぞんざいなこともあって、特にこの点が際立っているように感じます。加えて高校生とは思えない恣意的な会話、不自然で難解な単語の濫用、もしも実際に自分の身近にこんな高慢ちきな野郎がいたらまず近寄ることはないでしょうw夢見る二人の幸せムード満開の描写は、来る別れのときを最大限に盛り上げる為のエッセンスなのでしょうが、感情移入ができない故に不快感しか残りませんでした。終盤の朔太郎と祖父によって交わされる「死」についての禅問答というか哲学的な台詞の応酬も陳腐すぎて失笑を禁じ得ず、作者の薄っぺらい死生観が見え隠れして「結局これが言いたかっただけなの?」と勘繰りたくなるような内容でした。ま、ポイントではあるし字数を使っても表現したいところというのは理解できますが、もうちょっとシンプルにしてもいいんじゃないの?あともう少し自然なシチュエーションを演出したほうがいいですね。あまりにも唐突すぎます。プロットはまんま『ある愛の詩』だし、ストーリーについては特に語るべき部分はない。正直読後も何故この小説が社会現象になるほどの支持を受けたのかさっぱり理解できないのは私の頭が足りない所以であろうが、それにしても不思議だ。基本的な内容は当然同じである映像作品はいずれもそれなりに楽しめたにもかかわらず、である。小説のよかったところといえば文量が少なくて遅読の私でも速攻で読めたところと・・・あと装丁はよかったな。いずれも内容とは関係ないがw・・・とボロクソに貶してしまったが初版から随分経過しているし別にいいよねwところで前置きの内容を覚えておられますか?そう、お金を支払わなければ意見するべからずって内容です。そんな私ですからこの作品にも当然お金は支払いましたよ、えぇ。・・・・・・古本屋で200円ですが・・・・・・・・・。
Sep 28, 2005
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往復2時間弱の通勤電車の中が、私の読書タイムである。忙しい期間等は爆睡したりするので、ペースは決して速くない。それでも一年間で50冊近くは読めるから馬鹿にはできない。読む本はほとんど小説、それも文庫本が中心です。ジャンルはなるべく偏らないように気を使っているつもりですが、SF、ミステリー等が多いです。前置きが長くなりました。今朝10日近くかかって漸く読み終えたのが、小林泰三の「ΑΩ(アルファ オメガ)」です。少し読み進めばすぐにわかりますが、この作品は様々なオマージュ的要素がふんだんに盛り込まれています。謎の敵「影」を追って地球にやってきた異星人「ガ」は、過って飛行機に接触してしまい、乗客乗員すべての命を奪ってしまう。主人公はその飛行機の乗客の一人で、異星人「ガ」が乗り移ることにより、奇跡的に復活する。冒頭のくだりは、「ウルトラマン」、映画「アンブレイカブル」のそれですし、そもそも主人公の名前「諸星隼人」はウルトラセブンのモロボシダン、ウルトラマンのハヤタ隊員そのまんまです。主人公が戦闘形態である白い「超人」に変身して敵と戦うところもウルトラマンですし、自分の意志で変身できない事に苛立つ描写は、「帰ってきたウルトラマン」のそれともとれます。詳しくはネタばれになるので述べませんが、ラストシーンはSFの名作「幼年期の終わり」を彷彿とさせます。結局パクリだらけの詰まらない内容なのかといえば全くそんなことはなく、ともすれば荒唐無稽で陳腐な表現になりがちなものを、精密で冷静な筆致で巧みな描写は単純にすごいと思います。小林泰三の特徴として、残酷な描写は本作でも充分に発揮されているので、好き嫌いがはっきり分かれると思いますが、国産の貴重なSFの書き手として期待しています。
Sep 15, 2004
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