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俯瞰して思考する回路を
政治学者 姜 尚中さん
右往左往せぬよう歴史に目を開く
精 神的な言論活動と共に熊本県立劇場の館長、鎮西学院大学学長としても多忙な姜尚中さん。現代日本を代表する知性は、現下のコロナ禍をどう捉えているのか。「オミクロン株」による第 6 波を、どう超克するかが今後の分岐点になると思います」
疫病も災害も、月単位や週単位、あるいは時間刻みの生活などおかまいなしで到来する。姜さんの現在、劇場の運営、留学生の問題などで課題は山積という。
「昨年の第 5 波が収まり、このまま終息してほしいと思いました。でも、第 6 波の感染拡大で正直、ガクンときた。この次、さらに新たな変異株の大流行があれば、経済的にも心理的にも多くの人にとって大変厳しい状況ができます」
しかし、こんな時代にこそ、読書が重要だと姜さんは強調する。特に、〈大文字の歴史( HISTORY )〉への絵を開き、物事を俯瞰すべきだ、と。つまり、個々人の〈微細な歴史〉から離れた、思索の時間が必要なのだ。「目先のことに汲々とすれば、人は右往左往します。心がおれ、ささくれる。ですから、毎日の切実な時間間隔とは別次元の長い時間軸で試行する回路を持ちたい。長いスパンで考えないと、見えないこともあります。歴史に関する本からは、私も多くの啓発を受けてきました。池田先生も、歴史かトインビーの対談集『二十位世紀の対話』を出されましたが、そこで語られた通りです」
現実と知識のチューニングが大切
優 れた歴史書として姜さんが挙げるのは、ホブズボーム著『 20 世紀の歴史』。 1914 年勃発の第 1 次世界大戦を起点に現代史を俯瞰した名著である。「日本は第 1 次大戦の戦場とならなかったので、なじみが薄いかもしれませんが、第 1 次大戦と、同時期のスペイン風邪の現代への影響は多大です。これを読めば、歴史を俯瞰しながら日常を刻んでいく大切さも分かると思います」
姜さんは、これに関連して、バーバラ・ W/ タックマン著『八月の砲声』や、 E ・ H ・カー著『危機の二十年』、中村隆英著『昭和史』も薦める。「かたい本ばかりで恐縮です(笑い)。さらに、私が好きなのはトーマス・マンの『魔の山』です。やがては第 1 次大戦の戦地へ行く若者の生涯が〈大文字の歴史〉と織りなすドラマになっている。作中、雑多な人々が自分の世界史を交換し合っているのが示唆的です。高橋義孝さんの訳書が素晴らしい」
娯楽や趣味の読書は尊重すべきとしつつ、共産は読書量を誇示する〈本の好事家〉を忌み嫌う。「娯楽は、読書の半分、あとは現実と切り結ぶために読書します。〈好事家〉を免れるには、アクチュアル(時事的)な現象と知識がチューニング(同調)できるかどうか。これは、加藤修一さんが教えてくれました。現実社会への関心が薄ければ、読書の成果を生かすことはできません。その意味でも、新聞は重要ですね」
カン・サンジュン 1950 年、熊本県生まれ。専攻は政治学、政治思想史。現在、東京大学名誉教授、熊本県立劇場館長兼理事長、鎮西学院学院長、同大学学長。新著『『それでも生きていく』(集英社)など著書多数。
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