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予防原則に基づき規制する
尾松 亮
海洋汚染の削減課す条約
英国北西部セラフィールドでは、1994年に使用済核燃料からプルトニウムとウランを分離するソープ再処理工場が運転を開始し、放射性物質による海洋汚染の深刻化を懸念する国周辺からの非難が高まった。
海洋汚染低減に向けた法的効力のある合意を確立し、その表現に向けた国際ルールづくりを後押しした OSPAR 条約(「北東大西洋の海岸環境の保護を目的としたオスロとパリ委員会での条約」)である。
条件に基づく周辺国からの圧力により、英国はセラフィールド起源の放射性テクネチウム( Tc )99の放出量を目に見える形で削減する必要に迫られた。
その結果、95年時点で年間180テラベクレル(テラは10ン012条=兆)以上放出されていたセラフィールド起源の Tc 99が、2007年には5テラベクレルまで減少するという成果につながっている。
当初セラフィールドの運営企業は、放射性物質の海洋放出による周辺国住民の被ばく量は軽微である、として根本的な対策を取ることに消極的であった、汚染企業と汚染削減を求める周辺国の間で、主張は平行線をたどり、水掛け論になってもおかしくない状況である。
それでも OSPAR 条約が法的論拠となって、英国政府に放射性物質の放出量削減を求めることができたのはなぜか。
それは同条約は、いわゆる「予防原則」に基づき、人体への影響だけではなく、海洋汚染への影響それ自体を規制するルールとして機能しているからだ。
OSPAR 委員会はこの予防原則を、同条約の「指導原則」と位置付け、次のように説明する。
「予防原則に従えば、因果関係の決定的証明がない場合でさえ、人間の活動が、健康への被害をもたらし、生物資源や海洋生態系に害を与え、快適な活動環境に被害を及ぼし、あるいは他の合法的な海洋環境利用を妨害することについて懸念を持つだけの合理的な根拠があれば、予防措置を講じることが可能である。完全な科学的証明ができないことは、海洋環境保護の思索を遅らせる理由になってはならない。予防原則は、予防策を遅らせることが長期的に見て、社会と自然にとっての負担を増やし、将来世代の利益を損ねるということを前提認識とする」
汚染企業や一締約国の政府が「人体への影響は軽微」と主張しても、汚染削減策が免除されることにはならない。「海洋汚染への影響」それ自体が問題であり、否定的影響が懸念されるなら、予防策が求められるのだ。
(廃炉制度研究会代表)
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