動く重力

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短めの小説を置いてます
January 16, 2007
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カテゴリ: 短編小説
「人間って車のエンジンに似てるよな」
 寒い冬の朝、俺達は両手をコートのポケットに突っ込みながら道路を歩いていた。
「似てますか?」
 聞き返されてしまった。俺は思いつきで言っただけだった。良く考えれば二つはそんなに似ていない。だけど、似ている所が一つも無いなんて事もない。だから俺は適当な事を言って誤魔化す事にした。
「寒いと、なかなか動かないだろ?」
「まあ、そこは似てます」渋々、納得したようだった。
「今日みたいな寒い冬の朝は、俺達もエンジンももうちょっと寝ていたいと思うんだよ」
 俺は白い息を吐きながらそう言った。
 隣を歩く職場の後輩は俺の話に何の返事も寄越さなかった。
「何で黙るんだよ」
「ええと、その、寒いからです」取り繕ったような答えが返ってきた。
 俺は、はあっと溜息をついた。その瞬間、辺りが真っ白になって、何事も無かったかのように透明に戻った。
「寒い朝に車を動かすときは、事前にエンジンをあたためておくだろ?」
「ええ、普通は、そうしますね」
「俺もエンジンと同じで毎朝、事前にやっておくことがあるんだよ」
「へえ、何ですか、それは」後輩はまったく興味が無いといった風で話の先を促した。
「俺は仕事に入る前にココアを飲まないと仕事が上手くいかない」
「ココアですか」
「そう、ホットのココア。自動販売機で売ってるだろ?」
「その歳でココアなんて、随分可愛いものを飲むんですね」普段はとても温厚な男なのだが、今の言葉は百パーセント悪意があってのものだった。
「ココアがいいに決まってる。おっさんがブラックのコーヒーなんて、ありきたりだ」
「ありきたりでいいと思いますけど」
「馬鹿、たまには意外な一面が必要なんだよ。今のかみさんもそれで落としたようなもんだ」
「ギャップ、ですか」
「そういう事だ。ギャップは女を揺さぶる秘密兵器みたいなもんなんだよ」
「勉強になります。先輩」後輩は適当な言葉で誤魔化した。
 確かにどうでもいい話だったが、ここまで後輩に馬鹿にされているとなると悔しい。俺は先輩という立場を使って嫌味の一つでも言ってやろうと思って、こう言った。
「俺の話をちゃんと聞いてたのか?」
「聞いてましたよ。先輩の最終兵器はココアなんでしょ?」
「え? あ、ああ……」
 後輩は俺より一枚上手だった。
 話の流れからすると、確かに最終兵器がココアという事になる。しかし中年の俺にしてみれば、ココアはあまりにも情けない最終兵器だった。
「そういう言い方はないだろう」
「先輩が言ったんじゃないですか」
「そうだけど、流石にそれは格好悪すぎる」
「ギャップ、ですよ。先輩」後輩は嫌味ったらしくにやりと笑った。

「しかし寒いなあ。こういうときになると夏が恋しくなる」
「先輩、夏は夏でつらいと思いますよ」
「うーん、……確かに、そうだな。でも、夏の日差し、青い海を想像してみろよ」
「想像したくないです。今だけは『広いもの』から遠ざかる話にしましょう」
「う。そ、そうだな分かった。今の話は無しにする」
 この後輩はとても冷静だ。少しミスをしてもちゃんと修正してくる。だからこいつは仕事仲間からも信頼されているし、実際に俺も評価している。
 だが、こういう時に少しは先輩の顔を立ててくれても良いのではないだろうか。「まあ、状況が状況だしなあ」一人で納得してしまった。寒さで脳も動いていないんだろう。

「先輩、そんなに夏が恋しいなら、怖い話でもしましょうか?」何故か急に後輩が話を切り出した。
「お、何か面白い話でもあるのか?」このとき面白がってしまったのを、俺は後になって少し後悔する事になる。

「そうですねえ、一体、何処から話せば正確に伝わるかなあ」少し間を置いて、後輩は話を始めた。
「ある冬の日の夜の事です。雪の降りしきる中、道路を車が走っていました。
 車から見える景色は前後にまっすぐ伸びる道路と真っ白な雪に覆われた平らな大地だけでした。しかもそれが見えるのはヘッドライトの光が届く範囲までで、その外には暗闇が広がっています。そんな中、運転手は助手席に座る男にこう切り出しました。『眠いから今日はこの辺で、車を停めないか?』
 助手席の男は辺りを見回し、車を停めるような場所が無い事を確認しました。『路上駐車で、仮眠ですか?』
 運転手は言いました。『さっきから車は一台も通らないし、迷惑にはならないだろ?』
 確かにさっきからこの道に車は通りませんでした。それでも、助手席の男は運転手に提案しました。『もう少しで人気のあるところまで行けますから、寝るのはそれからにしませんか?』と。
 しかし、運転手の男は頑なに拒みました。『いや、もう限界だ。俺は寝る』そう言って、車を路肩に寄せました。
『あと小一時間ほど運転すれば町に着きますから、そこまで行きましょうよ』必死に助手席の男は食い下がりました。窓の外に広がる雪と暗闇を見ると、何か嫌な予感がしたのです。
『そんなに言うならお前が運転しろよ』何が気に食わなかったのか、運転手は不機嫌になり助手席の男に冷たく言い放ちました。
 助手席の男は免許を取得していませんでした。そして運転手の男はその事を知っていながらも、そう発言したのです。この一言には助手席の男も口をつぐむしかありませんでした。運転手の言葉はどちらが主導権を握っているかという事を助手席の男に理解させました。
 こうして道の端に車を停めて二人は車の中で仮眠を取る事にしました。
 さて、どれほど眠っていたでしょうか。寒さに体を震わせながら助手席の男は目を覚ましました。外は未だに雪が降り続けているので寒いのは当然です。当然なのですが、助手席の男は不思議に思いました。
『暖房が入ってない』
 寒いからこそ車内は暖房で暖かくしているはずです。助手席の男は、なぜ暖房を切ったんだと憤りながら運転手を起こしました。
『先輩、寒いんですけど』
 起こされた運転手は不機嫌そうに顔をしかめた後、助手席の男が言った事の意味を考えました。そして運転手は暖房が入っていない事に気付きました。運転手には暖房のスイッチを切った覚えはありません。何があったのか、と少しの間、頭を巡らせた後、運転手は一つの結論に辿り着きました。
『――バッテリーが、あがった』」


「わ、分かった。やめてくれ」俺はもう限界だった。助手席の男、いや、後輩が話したこの話は、まさについ数時間前の俺達に起こった出来事だった。
 雪が降り積もる寒い冬の朝、かなりバッテリーが上がりやすい状況。こうなる事は考えるまでも無く、容易に想像できたはずだった。バッテリーが上がってしまえば、エンジンを動かす事が出来ない。進退ここに窮まれりだった。
 しかし、俺はバッテリーが上がったのに気付いた時には大して焦っていなかった。何故か? それは俺が馬鹿だったからだ。
「先輩、怖い話はまだ終わってませんよ」どうやら後輩は俺に追い討ちをかけるつもりのようだ。「この後、先輩は『バッテリー上がりぐらい大した事じゃないだろ。困ったときは助けを呼べばいいんだ』と言いましたが――」
 こんなだだっ広い雪原では周囲に人も居らず、頼みの綱である携帯電話も当然のように圏外だった。
 そして今、俺と後輩はただただ真っ直ぐに伸びる道を歩き続けている。町に辿り着くにはそれしか方法が無いのだ。
「車、通らないかなあ」俺は弱々しく呟いた。しかし、待っているのは後輩の手厳しい言葉だけだった。
「先輩が言ったんですよ。全然、車が通らないって」

 後輩の怖い話はとても恐ろしく、ただでさえ寒いのに、より一層寒さが増してしまった。こんなときに俺は思う。温かいココアが飲みたいと。





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Last updated  January 17, 2007 03:49:46 AM
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