舞い降りた天使は闇夜を照らす 2

僕は健也と別れてから一旦自宅に戻った。
そして風呂に入り念入りに身体を洗い、髪の毛をセットして歯を二回磨いた。



どれも健也からの指示だった。
指示はメールで事細かく書かれて送られて着た。
健也の気迫が感じられて少し戦いた。



1、幸一は自分で言うほどカッコ悪くないから変な心配はするな。



2、とりあえずこの前一緒に服を買いに行ったときに俺が選んでやったビームスで買ったジャケットを着て来い。ジーンズはリーバイスでイイ。 間違ってもたまに大学に着てくるユニクロのダウンジャケットは着てくるな。



3、それとその金縁メガネは流行遅れだし幸一がかけると年齢不詳に見えるから前に買ったコンタクトレンズにしてこい。 なんかメガネがないと落ち着かないとか言ってたけど気にするな。
俺達がメガネ姿の幸一がいる事で落ち着けなくなる。



4、あとあのダサいリュックサックは背負ってくるな。 今さらだけれども亀仙人にしか見えないとみんなは噂をしている。
手ぶらでイイ。 もし荷物をどうしても入れたいなら駅前のコインロッカーに入れて、手荷物はディスクユニオンの袋にしろ。



5、最後に、『ラブ』のホテルのコンドームはアホなバイトが悪ふざけで針で穴をあけている可能性があるから絶対使うな。 俺も誠もいつも持ち歩いているから幸一が買うのが恥ずかしいっていうなら俺等がなんとかする。


6、さっき青山から連絡があって一人女の子が少し遅れるそうだから、そこんところはよろぴく。



以上。



僕は健也からのメールを見て普段の自分がどれほど恋愛と程遠い身なりや心持でいるのだと少し凹んだ。



でも健也からのメールは親友だからこその気遣いだと全部受け止めることにした。
しかしコンドームは気が早いのでは…



自室の大鏡の前でビームスのジャケットを羽織りリーバイスのジーンズに足を通してメガネをコンタクトレンズにした。



僕はいつも持ち歩く大学の教科書や六法全書をリュックサックに入れて背負いたかったけど、亀仙人と言われたからには背負うわけにはいかない。
せめて今夜だけは。



今夜の合コンは健也と誠が僕のためにセッティングしてくれたものだから少しは気を遣わなければいけない、そう思う。
今夜が終わったらまた元通りに戻ってもイイやと半ば開き直って少しカッコつけて大鏡の前でポーズをとったりしてみた。



時間は刻一刻と8時に近付いていく。
やっぱり30分前に行くべきだなと思ったけど健也が前に「モテル男の条件は少し遅れて登場することにあるんだよ。」と言っていたのを思い出して思い悩んだ。



とりあえず渋谷には7時半くらいに着いておこう。



あ!ご飯は?
ガツガツ食べたほうがモテルのか?
それよりも小食の方がモテルのか?
そこのところは健也も誠も教えてくれなった。


でも誠の父親が経営する呑み屋にはがっつり食べられるものが少なかったと僕は記憶している、何回か健也と誠とその呑み屋に行ったことがある。
おしゃれなアジアン風のレイアウトで落ち着いた雰囲気のお店だ。
お酒の種類が豊富で各県の地酒からカクテルまで飲むものには困らない。



とりあえず自宅で白米とお味噌汁と漬物を少しだけお腹に入れて渋谷に向かった。



悩んだ末に駅前のドラックストアーでコンドームを購入した。
中身だけをジャケットの内ポケットに入れて、箱はゴミ箱に捨てた。



誰かが見ているんじゃないか?
何か自分はとてつもなく悪い事をしているのではないか?
と自己嫌悪に陥りそうになったけど電車がホームに滑り込んできたので駆け足で飛び乗った。


メールを確認すると健也はもうすでに渋谷についてブラブラしているという。


僕は健也にモヤイ像の方で待ち合わせをしようとメールを送信した。



僕のこの容姿を確認してもらう為だ。



電車のドアが閉まり、ガタンと揺れた。



もしかしたら今日という日が…



少し期待に胸をはずませ、それ以上に大きな不安を胸に…
電車は僕の気持ちなど知らずに規則的に渋谷まで僕を乗せて線路上をスピードを上げ進み始めた。



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