MとSと。

今日は左太ももの膝にいっとう近い部分。
昨日は臀部の右の頬に青い痣が出来た。
痛さや汚さは無い。


自分でぶつけたり自傷などした記憶は全く無い。
夜、全身を大鏡で確認する。
自分で言うのもなんだがスタイルは良い。
奇麗な自分の身体を念入りに舐めるように見回して傷痕、痣が無い事を確認してから眠りにつく。


しかし朝起きて寝巻から出勤用の糊のきいたシャツに袖を通すと必ずと言ってもいいほど毎日、痣がくっきりと存在する。


この現象は私の初潮が始まった頃、小学5年生の頃から続いている。
誰にも相談などしてはいない。


~~~~~



私は女子短大を首席で卒業して24歳の図書館で働く、一般的に見れば至って普通の公務員。
今日も事務所で「本のページが外れ抜けている」と利用者からクレームを受けた。


クレーム処理、カウンター業務、本の配架、インターネットの普及に伴って電波で飛ばされてくる予約本の抜き、本のページのはずれの修理。


地味といえば一言で片付く。
遣り甲斐と言われると答えに臆す。
しかし自分に一番合っている職業という事は間違いはない。


思えば色んな仕事をしてきた。
赤坂の有名な今で言う「秋葉系」「萌え系」のコスチュームが売りのレストランでのウェイトレス。
レンタルビデオ屋の店員。
中古ゲームの販売員。
写真の現像の仕事。


最初に就職した会社はファックス・コピー機、と言ってもその二つを一緒にさせ、さらにコンピュータの機能を合体させた今流行りの「複合機」という数百万円もする大きな機械のリースの孫請け会社だった。


最初は新規開拓のテレフォンアポイントメント部に配属され朝の8時半に出勤をしてまず会社内の清掃、そして9時の体育会系のノリの「昨日の戦果発表」の儀式、そしてお茶酌み、それから9時半ごろからひたすら電話をかけると言う業務内容だった。


時に電話相手に怒声を浴びせられ。
時に暇な電話相手のセクハラにも耐えた。


そしてテレフォンアポイントメント以外の仕事もさせられるようになった。
「当たり」の少ない新規開拓の電話を四六時中している…
その電話料金も馬鹿にならないからだ。
外回りの「足」での新規開拓営業をさせられるようになった。


その頃から私はこの会社の悪態を知る。


先輩にこの会社はある区では一歩も中に入ってはいけないんだと言われた。
最初私には意味が分からなかった。
後に知ることになる。


新規開拓では最初は先輩について片っ端から目についた会社のドアを叩いた。
ここでも罵られ怒声を浴びセクハラを受けた。
でも仕事と割り切る自分が確かに居てくれた。


しかし…


ある日テレフォンアポイントメントで時間を作ってくれた…それはつまりアポが取れたと言う事。
会社の社長の所に私と係長と一緒に行った。

会社と言っても80の隠居するかしないかの社長が一人、社員は息子一人。
小さい会社だった。
会社とも呼べるか分からない小さい事務所だった。
しかしそこには大きな「複合機」が置いてあった、ファックスとコピー機と電話も置いてあった。


前にも述べたように複合機は「ファックス・コピー・コンピュータ」を合体させた機械だ。


複合機が置いてある時点でファックスもコピーも必要がない。


しかしそこの社長はそんな事を露も知らず置いてあることを自慢げに話していた。


「ウチにはイイ機械があるから」
「良くしてもらってるリース会社があるんだ」


そう言っていた。


係長はその意味の履き違えを正した。
複合機の機能性、私の会社で出せるリースの料金の値下げなどを冗談と世間話を交えて2時間は話した。



結果、係長はその社長に「とりあえず、予備の審査を掛けるだけなんでハンコ一個押してもらえますか?」
「出来れば三文判じゃなくて実印がいいんですよ、審査員の印象も良いですし」
「予備の審査ですから、予備ですから」



…社長は実印を押した。
…それを私は見ていた。
…会社に帰るタクシーの中まで私はずっと「予備審査」だと信じて疑わなかった。



しかしそれは違った。
「予備審査」は口実。


その実印を押した書類は200万円の契約の書類だった。



係長は「80歳だとリースの期間中に死ぬかもな、でも息子に払わせればいいだろ?」
「俺たちだってこうやって外回りして契約とってノルマをこなさないとオマンマ食い上げなんだよ」
「お前もノルマこなせたから今回は給料いいぞ」




…私はこの日の翌日に辞表を書いた。


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