2002/04/01
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 昨年の九月に「退屈な話」を読んでいろいろ打撃を蒙って以来のチェーホフ。最近某所でも話題になっていたし、高橋和己がこれに触れた文章も読んだが、つまるところそれは傑作でありながら、傑作であるからこそ、二度と読み返したくない、つらい代物であった。
「犬を連れた奥さん」は、ニキータ・ミハルコフ監督「黒い瞳」の原作でもある。他にもあるらしい。「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲」同様に私はこの映画が好きである。マルチェロ・マストロヤンニが好きであるし、チェーホフが好きであるし、ミハルコフ監督では他に「シベリアの理髪師」も好きであるし、ようするにマストロヤンニはともかくとして私はロシア好きである。
 映画の思い出に浸りながら読み終えた次に待っていたのは「ヨーヌィチ」。三編収録のこの本の題名が示す通り「他一編」の話である。だから油断していた。「退屈な話」に与えられた打撃は半年経っても全く癒えていないというのに、いささか短くて早足ではあるが、似たようなテーマの話だと知らず読みはじめてしまった。そしてまた酷く身体を焼いた。
 昔好きだった人の夢を見ると、昔のままの姿の相手に夢の中で私はその時の身体のまま気持ちのままの感情を持つ。だがやがて覚めはじめて意識は年月を知る。起き出してからははっきりと、「あれらはもうあのようなものではないのだ」という悲しみを味わう。相手と自分の姿形、感情、思い出、それら全て、今は昔ではなく、昔は今ではない。
 出会いには間というものがある。「退屈な話」を読んだ時、ちょうどその前の晩に小説とリンクするような、話を強める効果を持つような出来事に出会ったばかりであった。今も、途中までは楽しくても、覚めて後は宇宙から突き落とされるような感覚を味わう夢ばかり見る頃に「ヨーヌィチ」に出会ったのは運が悪かった。
 傑作であるからこそ、私は、私はチェーホフを恨む。
 巻末の池田健太郎「神西清の翻訳」も良い。

チェーホフ「可愛い女,犬を連れた奥さん 他1篇」神西清 訳(岩波文庫)





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Last updated  2002/04/01 01:51:59 AM
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