2002/11/21
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 多和田葉子の文章を受け付けなくなっているのではないか、という特に根拠のない危惧は空振りに終わった。しかし「変身のためのオピウム」の時のような良い文章には出会えなかった。「ふたくちおとこ」の時のような「やられた!」感もなかった。私は多和田葉子の小説を読んだ。私は「容疑者の夜行列車」という小説を読み終えた。その前後における「私」にはそれほどの違いは見られない。小説の主人公のように二人称で語られることはない。


 二日目の朝、目が覚めてしまった直後、言い訳のように、膀胱に圧迫を感じる。トイレに行きたいのだな、と他人事のように思う。起きる気になれない。これが夢だったらどんなにいいだろう、と思う。しかし、トイレに行きたい人間と、目が覚めてしまった人間と、起きるのが嫌だと思っている人間と、全部足し算してみても、たった一人である。これほど自分が一人だと思わされる瞬間はない。たとえ一人旅でなかったとしても、旅の同伴者を起こしてトイレに行くことはできない。トイレに行く時には、人間はいつも一人である。


 話の内容と昨日の夢が混ざって煮凝る。ある学校へ後輩達を試合のため連れていかねばならない。しかし最終バスが桁外れに時間が早く、今から家を出て間に合うはずがない。私は自分が既に引退しており、心配する必要のないことに気付く。それと同時に、引退した身であるからこそ、そこへ行かなければならなかったことにも気付く。間に合わない事実に変わりはない。今からでも何とかなりそうな夜行列車を探し始める。

多和田葉子「容疑者の夜行列車」(青土社)





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Last updated  2002/11/21 07:17:08 PM
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