2003/09/05
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カテゴリ: 海外小説感想
 コーン付きのアイスを食べながら歩く少年は、痒いのか、虫でもいてほじくり出したいのか、通行人に半ケツ晒すことも気にせず自分のケツに手を突っ込みボリボリやっていた。掻き終わると気にせずその手にアイスを持ち替え食べ始めた。
 パンクという印象が強いからといってこの邦題はひどい。原題の「Ham on Rye」について訳者があとがきで「ライ麦パンハムサンドという以外の意味についてはわからない」と述べているが、多分ヘンリー・ミラー『南回帰線』からの次の一節からとったものと思われる。もっとも、アメリカ人にとってのライ麦パンとは誰にとってもこのような少年時代の想い出の象徴的な食べ物であるかもしれないけれど。

あの長かった夏の思い出は、まるでアーサー王物語の中の一篇の田園詩のように思える。ぼくはしばしば、どうしてあの夏がこれほど鮮やかに記憶に残っているのか、ふしぎに思うことがある。ちょっと目を閉じるだけで、あの一日一日が甦ってくるのだ。あの少年の死は、いっこう悩みの種とはならなかった──一週間とたたぬうちに忘れてしまったからだ。地下室の薄暗がりの中に、スカートをまくって立っていたウィージーの姿、これもたやすく消えてしまった。だが奇妙なことに、まい日叔母からもらったあの厚切りのライ麦パンだけは、あの夏の他のどんな思い出よりも、強い力を持っているようなのだ。

ヘンリー・ミラー『南回帰線』河野一郎 訳 より


 セリーヌの少年時代よりはいくらか大人しい。大学時代まで行ってもチナスキーは童貞のままだが、酒の方は少年の頃から飲んでいる。セックスをオナニーに変えただけで、他の小説と作風は変わらないのに、ただ少年時代というだけでブンガク作品みたいになっている赴きも少しある。真珠湾戦争が始まり、かつて殴り合いをした、自分と同じ作家志望の友達を軍の基地に送り出した後、ゲームセンターでそこらの子供とボクシングゲームに興じる場面など、珍しく本当に素晴らしいじゃないか。
 そんなことはどうでもいい。





 おかしい。最後の方では本当に泣きそうになったのに。引用したくなったのは一番どうでもいいところだ。

河出書房 1995年 単行本





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Last updated  2004/10/29 01:40:37 AM
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