2003/09/11
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カテゴリ: 海外小説感想
 満塁ホームランを打った外国人選手に試合後勝利インタビューしているのをテレビで見た。
「あなたはヒットを打った時いつも胸から下げてる十字架にキスします。日本には『お客さまは神さまです』という言葉があります。あなたはここに集まってくれている観客をどう思いますか。私はそれ問います」
 という内容の質問をインタビュアーがしていた。外国人選手は質問の意味を掴みかねて「私にとって十字架はとても大切なものである」というような曖昧な返事をしていた。「お客様は神さまです」という商売用の慣用表現の中の「神」と、程度はどのようであれ信仰対象である「神」とをインタビュアーは混同していた。ここでその外国人選手がこの二つの全く意味合いの異なる「神」を同一視した発言をすれば、困るのは彼一人である。質問した方は自分が何かおかしいことを言ったとも思わないだろう。些細なことに思えるが、この程度のこと、少し想像力を働かせれば相手の言葉をつまらせることもないだろうに。
 というわけではないけれど。たまたま読んでる最中にそのようなことがあっただけで。「私はキリスト教の正統的信仰の立場から物を見る。私にとって人生の意味はキリストによるわれわれの救済に中心をもち、私が世界のなかで物を見るとき、私はそれをこのこととの関連において見る」という立場で小説を書いたアメリカ南部の作家フラナリー・オコナーの短編集。
 同じカトリック系作家の森内敏雄を読んでいてもそう思ったが、どうしてこの人達は救いのない話が多いのだろう。救いのない話ばかりをこれでもかと見せつけといて、救い主を求める心を読者に自然に起こさせる意図でもあるのだろうか。
 それにプラスアメリカ南部作家の目から見た黒人という存在への何度も繰り返される強い視線による描写。蔑視ともとれるが『強制追放者』を読むと、外国人より、また白人よりもよりよく知り尽くしている相手として描いている。「知らない悪魔よりはなじみの悪魔のほうがまし」これは黒人の登場人物の言葉だが。
 信仰問題、民族問題、さらに加えて小説の内容に関わることの多い作者自身の身体問題(彼女は紅班性狼蒼という不治の病を25歳の時発病し、脚と顔の下半分に障害を抱え、39歳で死去)があり、それらが雰囲気を重く苦しくし「短篇で良かった」と思えるほど、読んでいて疲れる。森内敏雄はもう少しエンターティメント色が濃い。『善人はなかなかいない』の主人公の老婆は、自分が言い出した寄り道の提案のおかげで家族の乗った車が事故を起こし、そこをお尋ね者一味に襲われ家族ごと殺されるはめになる。事故直後に老婆が思うのは「あの屋敷がじつはテネシー州にあることは言わないでおこう」という、寄り道先を豪快に勘違いしていた自分の間違いを隠すお茶目な一面。この辺りはまだ笑えるのだけれど。全てがこの調子ではない。




『強制追放者』より


 老ダッドリーはせまい廊下に出るのがいつでもこわかった。よそのドアがいきなりあいて、下着のままで窓の棚から乗り出して外を見ている連中のだれかが現れ、「おまえ、ここでなにやってるんだ?」とどなりつけそうな気がするのだ。黒人が住む部屋のドアはあいていて、窓に近い椅子に女がすわっていた。「北部の黒人か」と老人はつぶやいた。女はふちなし眼鏡をかけ、ひざに本をひろげている。黒人というのは、ちゃんとした身なりには眼鏡がかかせないと思っているんだ、と老人は思った。ルティーシャの眼鏡のことを思い出した。眼鏡を買おうと、彼女が十三ドル貯めこんだ。それから医者に行って、何度のレンズを入れたらいいか、目の検査をしてもらった。医者は鏡板ごしに動物の絵を見させたり、目に光線を当てて頭の奥をのぞいたりした。それから、あんたは眼鏡はいらないと言った。ルティーシャはすっかり腹をたて、三日たてつづけにコーン・ブレッドを焼きまくった。だが結局、十セント・ストアに行って、出来合いの眼鏡を買った。たったの一ドル九十八セントだった。日曜になるとその眼鏡をかけて教会に行った。「あれが黒人ていうものさ。」老ダッドリーは声をたてて笑った。自分が声をたてたのに気づいて、手で口をおさえた。アパートのだれかにきこえたかもしれない。

『ゼラニウム』より


「右を向いても壁。左を向いても壁。上を見れば天井。下は床。やったことなんかおぼえちゃいないよ。そこにずっとすわり続けて、おれはいったいなにをやったのか、考えてみたんだがね、いまだに思いだせない。時どきはっきりしそうになることもあるんだが、やっぱりだめだ。」

『善人はなかなかいない』より



 本巻最後に収められている『列車』を、おそらく違う翻訳者によるもので以前読んだ覚えがあるのだが、それが何処でだったかが思い出せない。


筑摩書房 2003年 単行本





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Last updated  2004/10/29 01:39:39 AM
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