2004/06/24
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カテゴリ: 海外小説感想
 高く飛ぶことが出来ず、乾ききった側溝の中を前へ前へと突き進む蛙は当然鳴いていなかった。
 今年一番面白かった。好きな作家にペドロ・カマーチョ(超人的なペースでラジオドラマの脚本を書き続ける登場人物)という名前を加えることにする。
 とても面白かったので、この本が売れるように、宣伝めいたことを書こう。難しいことだ。いや、そんなに難しいことではないかもしれない。しかし簡単ではないだろう。新聞や文芸誌の書評欄では、こぞってこの本を取り上げるには違いない。
 最近出たばかりの本。
 国書刊行会のサイトhttp://www.kokusho.co.jp/より


フリアとシナリオライター
マリオ・バルガス=リョサ著/野谷文昭訳

【文学の冒険:第57回配本】

 結婚式当日に突然昏倒した若く美しき花嫁。泥酔して花婿を殺そうとする花嫁の兄。一体ふたりの間には何があったのか!? 巡回中のリトゥーマ軍曹が見つけた正体不明の黒人。彼の殺害を命じられた軍曹は果たして任務を遂行することができるのか!? ネズミ駆除に執念を燃やす男と彼を憎む妻子たち。愛する家族に襲撃された男は果して生き延びることができるのか!?

 ボリビアから来た<天才>シナリオライター、ペドロ・カマーチョのラジオ劇場は、破天荒なストーリーと迫真の演出でまたたく間に聴取者の心をつかまえた。小説家志望の僕はそんなペドロの才気を横目に、短篇の試作に励んでいる。そんな退屈で優雅な日常に義理の叔母フリアが現れ、僕はやがて彼女に恋心を抱くようになる。一方精神に変調を来したペドロのラジオ劇場は、ドラマの登場人物が錯綜しはじめて……。

 『緑の家』や『世界終末戦争』など、重厚な全体小説の書き手として定評のあるバルガス・リョサが、コラージュやパロディといった手法を駆使してコミカルに描いた半自伝的スラプスティック・ラブコメディ。

四六変型・上製 2520円
ISBN4-336-03598-9


 もう随分前のことのようにも思えるが、それほどでもない。この本を読みたいと思ったのは日記によると今年の4月8日。http://plaza.rakuten.co.jp/kochi/diary/200404080000/ 


 ところで、『生埋め』の最後の方に載っていた「文学の冒険シリーズ」の宣伝の中(当時2000年)に、リョサの『フリアとシナリオライター』が「近刊」と書いてあり、読みたくなったので探してみたが、国書刊行会のサイトの方でいまだに「近刊」と、表示されていた。あとがきで翻訳者がしょっちゅう関係者各位に謝っている理由がなんとなく分かった。


 私が待ったのは2ヶ月ちょっと。この作品が発表されたのが1977年。翻訳の企画が持ち上がったのが1989年だから、本当に読みたくてたまらない人は英訳されたものなどを頑張って読んだんじゃないだろうか。


*ついに出ました『フリアとシナリオライター』! ついに、とは? <文学の冒険>シリーズ刊行を発表したのが1989年春のこと。そして『フリア』はなんと第1期ラインナップに入っていたのです……。15年の年月を経て、今刊行の時を迎えることができましたのも、ひとえに読者の皆さまの長年にわたる叱咤激励のおかげであります。刊行が延びてしまったことは、ただただ申し訳なく、今後こういうことのないよう気をつけたいと思っております。ともあれ、そうした事情を微塵も感じさせないポップなカバーで彩られたバルガス=リョサの大傑作、是非店頭でお手にとってご覧いただきたく存じます。なお映画化もされてまして(1990年)、邦題は『ラジオタウンで恋をして』。フリア叔母さんをバーバラ・ハーシー、小説家志望の主人公をキアヌ・リーヴスが演じています。

国書刊行会サイト内「最新ニュース」より


 作家の若い頃の自伝的な青春話と、それぞれに魅力的だがクライマックスは隠されているラジオドラマのストーリーとが交互に書かれる話を、どのように映画化したのか興味はあるが、あまり面白い出来だろうとは思えない。
 とここまで書いてから随分と時が経ち、台風が過ぎ、読み終えた小説は溜まり、感想は滞り、日々少しずつ音色を変えていく蛙の鳴き声のことばかり考えている。とここまで昨日書いた時蛙は小さく鳴いていた。今日は元気な奴が二匹いる。耳を澄ますとその背後に小さな鳴き声が何重にもあるのが分かる。今日こそ書き上げよう。もう何でもいい。
 作者と叔母の恋愛・結婚は本当の話で、その後叔母と離婚した後は従妹と結婚している。作者が狭い範囲でしか恋愛出来ないことと全く関係ないが、『都会と犬ども』(新潮社)の著者近影はとてもオカマ臭い。
 誰が見ているかよく分からない日本の昼にやっているテレビドラマを300倍濃くしたようなそれぞれのラジオドラマのストーリーのラストは、断片的にしか分からないが、それぞれ火事や大地震や

 雨が近づいて来て、蛙の声が遠くなった。こちらにやってきた時は激しかったのに、落ち着いて降り出すと雨音も小さくなり、やがて蛙の声も盛り返してきた。

それぞれ火事や大地震や

 と思ったら大降りになり、同時に車の行き交う音が増え、水飛沫の姿が目に見えてくるようで、これまで意識してこなかった音の重なりに驚く。

それぞれ火事や大地震やらでとにかく登場人物は全て死に絶え、視聴者を置いてけぼりにしたラジオドラマは結局ペドロ・カマーチョが来る以前の状態へ戻る。
 各話に必ず出てくるアルゼンチン及びアルゼンチン人への差別と偏見に満ちた文章も楽しい。その理由も後に明かされるので気を揉んだまま終わらずにすむ。
 雨は豪雨に変わり、強い風に吹き流された雨が部屋の窓を叩く。今度は本当に雨音以外何も聞こえない。激しい風と思ったのは回していた扇風機からの風の勘違いで、それを止めると外からの冷えた風が突き刺さるように舞い込み、今度こそ本当に窓を閉める。書くのに何日もかけるから天気がころころ変わる。
 当初の目的を忘れた。


国書刊行会 2004年





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Last updated  2004/06/24 11:53:49 PM
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