趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

May 20, 2017
XML
カテゴリ: 学習・教育

第九十三段

【本文】

 むかし、男、身はいやしくて、いとになき人を思ひかけたりけり。すこし頼みぬべきさまにやありけむ、ふして思ひ、起きて思ひ、思ひわびてよめる。

あぶなあぶな 思ひはすべし なぞへなく 高きいやしき苦しかりけり

むかしも、かかることは、世のことわりにやありけむ。

【注】

〇身=身分。

〇いやし=身分が低い。

〇になし=比べるものがない。最上だ。『蜻蛉日記』天禄元年「になく思ふ人をも人目によりてとどめ置きてしかば」。

〇おもひかく=思いをかける。恋しく思う。『伊勢物語』五十五段「思ひかけたる女の、え得まじうなりての世に」。

〇頼む=たよりとする。期待する。

〇ふす=横になる。寝る。

〇おもひわぶ=思いに沈む。悲しみにくれる

〇あふなあふな=佐伯梅友・馬淵和夫編『古語辞典』(講談社)に「〔『あぶなし』の語幹を重ねた語。『あふなあふな』と読んで、真剣になどの意とするのは誤り〕はらはらするような状態で。はらはらと気をもみながら。心を尽くして」とあるが、現行の古語辞典には「あふなあふな」を見出し語とし、「身の程に合わせて」「身分相応に」の意に解するものが多い。

〇なぞへなし=比べようもない。

〇ことわり=言うまでもない。

【訳】

むかし、男が、身分は低い状態で、比類ないほど高貴な人を恋い慕っていた。すこしは期待がもてそうだったのだろうか、横になっては恋しがり、起きては恋しがり、悲しく思って作った歌。

十分に気を付けて身分相応に恋はしなければならない。身分が高い者と低い者との間の恋は比べようもなく苦しいものだなあ。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  May 20, 2017 03:56:18 PM
コメント(0) | コメントを書く
[学習・教育] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: