億万長者の幸福論 観念をふっとばせ!

「善」の部分を直視する


●ネットの「善」の部分を直視せよ


 ところで日本の携帯電話とブロードバンド(高速大容量)のインフラは、ほぼ世界一の水準にある。

 「光ファイバー接続でインターネットを家庭から安く使える」なんて話を米国人にすれば、憧れのまなざしで日本を見つめる。

 インフラ面ではもう日米逆転が起きてしまった。

 古い世代には「ITといえば何でも米国が圧倒的に進んでいて日本はそれをどう追いかけるか」という発想が染み付いているが、日本の若い世代は全く違う。

 (中略)

 「米国って日本よりずっと遅れているのに、インターネットの中はすごいんですねぇ。米国の底力を感じます。ショックでした。」

 私は耳を疑った。
 「米国が遅れている」という前提から入る発想が私にはとても新鮮だったからだ。
 でもこれが、携帯とブロードバンドでは世界一のインフラを持つ日本で育った世代の米国に対する自然な感想なのである。

 (中略)

 それはネット社会という巨大な渾沌に真正面から対峙し、そこをフロンティアと見定めて新しい秩序を作り出そうという米国の試みが、いかにスケールの大きなものであるかに対する驚きだったのである。

 日本の場合、インフラは世界一になったが、インターネットは善悪で言えば「悪」、清濁では「濁」、可能性よりは危険の方にばかり目を向ける。
 良くも悪くもネットをネットたらしめている「開放性」を著しく限定する形で、リアル社会に重きを置いた秩序を維持しようとする。

 (中略)

 米国が圧倒的に進んでいるのは、インターネットが持つ「不特定多数無限大に向けての開放性」を大前提に、その「善」の部分や「清」の部分を自動抽出するにはどうすればいいのかという視点で、理論研究や技術開発や新規事業創造が実に活発に行われているところなのだ。

 (中略)

 不特定多数の意見をどのようなメカニズムで集積すると一部の専門家の意見よりも正しくなるかについての「wisdom of crowds」(群集の叡智)。見知らぬ者同士がネット上で協力して新しい価値を創出する手法「マス・コラボレーション」。ネット上にたまった富をどう分配すべきかという意味での、「バーチャル経済圏」・・・・・。

 インターネット上の開放空間で、新しい理論の研究から実験システムの開発、さらには事業創造のトライアルまでが繰り広げられ始めたのだ。

 日本もそろそろインターネットの「開放性」を否定するのではなく前提とし、「巨大な渾沌」における「善」の部分、可能性を直視する時期に来ているのではないか。

 「日本が米国よりも進んでいる」という前提で物事を発想できる若者たちが大挙して生まれたことは、日本の将来にとっての明るい希望なのだから。



                      梅田望夫


ウェブ進化論





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