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2023.12.08
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カテゴリ: 報徳記を読む
鷲山恭平著「報徳開拓者 安居院義道」の現代語訳復刻版クラウドファンディング
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報徳記  巻之七 

【8】先生下總印旛沼掘割見分の命を受け彼の地に至る その1

于時(ときに)天保十三壬(みづのへ)寅年幕府命を下して下總國(しもふさのくに)手賀沼より新川を穿(うが)ち印旛沼に注ぎ、印旛沼より大海に達し、刀根(とね)川の分流と爲(な)し通船の便利を開かんとす。
水理に達する輩(ともがら)をして其の成功の策を建言せしむ。
抑々(そもそも)此の事の原因を尋ぬるに、刀根川洪水の時に當(あた)りては、堤防を破り田圃(でんぼ)を流亡(りうぼう)し、水邊(すゐへん)の村々これが爲(た)めに水害を被(かう)むること少なからず。
手賀沼より印旛沼に堀切り、又(また)南方(なんはう)馬加(まくわり)村の海邊(かいへん)に掘割り、蒼海に達する時は、流水(りうすゐ)新川に分流し水害の患(くわん)を除き、且(かつ)奥州(あうしう)の通船常に房總(ぼうそう)の大海を渡り、浦賀港(みなと)に入り然る後江都(かうと)に達す。
房州の海中難所ありて屡々(しばしば)波の爲(ため)に破船し、米穀を失ひ往々(わうわう)覆溺の殃(わざはひ)に罹(かゝ)るもの少なからず。
然るに刀根川より直ちに内海に達し江都(かうと)に至ることを得る時は、里數(りすう)を減すること多くして覆没(ふくぼつ)を免れ、且(かつ)軍用の便宜ありといへり。
往年某年(それとし)此の役(やく)を起こし數十萬(まん)の財を散じ穿(うが)ちたりといへども、終(つひ)に事成らずして廢(はい)せり。
故に今復(また)此の業を遂(と)げ不朽の大益を開き、衆民の水害を救はんとの深慮なりと云ふ。

同年十月官(くわん)先生をして彼の地に至り、土地の高低難易を量り成不成を察し、其の思慮するところを言上せよと命ず。
先生命を受け退き歎じて曰く、
此の事下民(かみん)を恤(めぐ)み國家(こくか)の大益を擧(あ)げんとの賢慮なりといへども容易の事にあらず。
萬事(ばんじ)の成不成自(おのづ)から時あり又(また)事業に先後あり。
我假令(たとひ)彼の地に臨み見分(けんぶん)するも其の益なかるべし。
然れども君命辭(じ)するの道なし
 と。
是(これ)に於て江都(かうと)を發(はつ)し下總國(しもふさのくに)に至り、諸有司(しょいうし)と共に日々廻歩(くわいほ)して其の地勢高低難易を熟見(じゆくけん)し成不成を考ふ。
手賀沼より印旛沼の間、道程二里印旛沼より南の方馬加村(まくわむら)の海邊(かいへん)まで四里、合して六里新に水路を開き、通船せんとす。
實(じつ)に大業といふべし。
中間に高臺(たかだい)と名づくるところあり。

之を穿(うが)つに堅石を穿(うが)つよりも勞(らう)せり。
下(しも)海邊(かいへん)を去ること數(すう)百間(けん)にして天神山と唱ふる小山(こやま)あり。
兩山(りやうざん)の間の土地低くして泥土(でいど)の深さ測るべからず。
之を浚(さら)へるに幾萬(まん)の畚(ふご)を擧(あ)ぐるといへども、泥土元の如く涌(わ)き出し更に尺寸(しやくすん)を減ぜず。
往年の役(えき)に車器械を設け、此の土泥を海邊(かいへん)に巻出(まきいだ)したる時は海濱(かいへん)之が爲(ため)に埋まり、數(すう)十間の平地を成すと雖も天神山高さを減ずること三尺(じやく)餘(よ)にして泥土元の如くに涌出(ようしゅつ)し依然として寸(すん)も卑(ひく)きをなさずと傳(つた)へたり。
實(じつ)に兩山(りやうざん)の下は皆泥土にして限りなく、人力の及ぶ所に非(あら)ざるに似たり。
諸吏(しょり)各々思慮を盡(つく)し數(すう)十日にして見分(けんぶん)測量畢(をは)り、江都(かうと)に歸(かへ)り彼の地の事業且(かつ)用財(ようざい)の多少成功の目途(もくと)年數等(ねんすうとう)を言上せり。
先生更に建言する所あらず。
官(くわん)先生に問ふて曰く、
汝の見る所如何(いかん)。
先生曰く、
某(それがし)未だ其の成不成を決することあたはず。
人此の大業必ず成るべしと云ふも不可なり。
全く成るべからずと云ふも、果たして成るべからざるにあらず。
不成の道を以て之を擧(あ)ぐる時は、幾千萬(まん)人を役(えき)し幾百萬(まん)の財を散ずといへども成るべからず。
成るべき道を以て事を擧(あ)ぐる時は、天下何物か成就せざらんや。

官(くわん)又問ふて曰く、
其の成るべからざるの道如何(いかん)。
先生曰く、
天下の威權(ゐけん)を以て人夫(にんぷ)を役し、之を役するに財を以てし成業(せいげふ)を期するに年(とし)を以てす。
是れ土功(どこう)を擧(あ)ぐるの常道なり。
此の常道を以てせば難所の役(えき)吏民(りみん)共に窮し、只(たゞ)利を計りて其の心(こゝろ)義にあらず、事は進まずして財は既に盡(つ)き、年限は既に至りて事業は半(なかば)に至らず。
吏民(りみん)共に不正に陥り、遂(つひ)に廢(はい)せんか。
是(これ)成らざる所以(ゆゑん)也。

又問ふ
其の成るべき道如何(いかん)。
先生曰く、
之を期するに年限を以てせば百年といへども其の成るを以て期とし、用財を限らずして其の成功の時を以て用度(ようど)の限りとなし、一旦事を發(はつ)せしより假令(たとひ)何百年何百萬(まん)の財を用いると雖も、全功(ぜんこう)を以て善(よし)とし悠々然(いういうぜん)として速かならんことを求めず。
然して又其の事を怠らず、連々綿々として力を盡(つく)す時は、必ず成業の時なしといふべからず。
是れ大業成就の道なり、
然れども之を行ふに先後する所あり。
若し其の先んずる所を後にし、其の後にする所を先んぜば亦(また)成就を必(ひつ)すべからず。

官曰く、
其の先んずる所は何ぞや。
先生曰く、
萬民(ばんみん)を撫育(ぶいく)するにあり。
曰く、
其の後にするものは如何(いかん)。
印旛沼の掘割(ほりわり)是(これ)なり。

官曰く、
今問ふところ此の事にあり。
何ぞ萬民(ばんみん)撫育(ぶいく)の事を以て先とするや。
是れ別事にして此の事に關(くわん)するにあらず。
答へて曰く、
六里の新川を穿(うが)ち萬世(ばんせい)の有益を開んとすること豈(あに)大業にあらずや。
此の大業を成(な)さんもの誰(たれ)の力にか成らん。
必ず諸民を役(えき)して其の筋骨の勞(らう)を盡(つく)さずんば、他に成すべきの道なきこと明らかなり。
今近國(きんこく)の民を見るに昌平(しやうへい)の澤(たく)に浴し、自然奢侈(しやし)怠惰に流れ窮乏を免れず。
貧なる時は其の心(こゝろ)利に走り義を忘る。
此の民をして此の役(えき)を起さば用財を取るを以て先とし、筋骨の勞(らう)を後にせんか。
然らば則ち財は多く費(つひ)ゆることありて事は成り難し。
若し上(かみ)大仁(たいじん)を布(し)き、諸民の困苦する所を除き其の生養(せいやう)を安んぜば、百姓大いに喜び大恩を感じ、子孫に至るまで報恩の志(し)を懐かん。
此の時に當(あた)りて報恩の志(し)あるものは、此の事に力を用ゐよと令せば、百姓老幼(らうえう)となく一身の勞(らう)を忘れ、感泣して力を斯(こゝ)に盡(つく)し、互いに盡力(じんりよく)の不足を以て耻(はぢ)とせん。
萬人(まんにん)一心勞(らう)を忘れ報恩を以て心となす時は、誠心内に充(み)ちて外(そと)分外(ぶんぐわい)の力を盡(つく)さん。
萬民(ばんみん)誠意を主(しゅ)となすときは、假令(たとひ)山を抜(ぬ)き石を穿(うが)つといふとも成らずんばあるべからず。
夫(そ)れ此(こ)の如くなる時は此の大業の成就迂遠(ゆうえん)に似(に)て却(かへ)つて速かなるべし。
何ぞや其の本根(ほんこん)を堅くする時は繁榮(はんえい)其の中に存するが如し。
是(これ)これを先後に由つて、大業の成不成ありと謂ふ
 と言上す。
後に此の意を擴充(くわくじゆう)して見込書二巻を作れり。
時後るゝに由つて之を奏(そう)せず。
人其(そ)の書の奏(そう)せざることを惜(をし)めりと云ふ。





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最終更新日  2023.12.08 00:00:17


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