楼門の段
老一官たちは獅子ヶ城で再び落ち合い、城に向かって開門を頼むが、今は将軍不在であり、どこの誰とも知らぬものをなかに入れることはできないと、取り付くしまもない。
それでは、将軍の夫人にあって話をさせてくれと、押し問答をする。
騒ぎを聞きつけて、錦祥女が楼門に姿を現し、「私と話をしたいとはいったい何者であるか。」と問う。そこで老一官は、日本に渡った父親である事を話す。証拠はと聞く娘に、お前に残した私の絵姿を見てみよ、必ずわかると言う一官(写真は、錦祥女が絵姿を取り出して見比べているところ)。祥女は父親であることは納得し、「日本に渡った父さんとはもはやこの世で 会えぬと思っていたが、こうして会える嬉しさよ。」しかしながら、親戚縁者とはいえ他国のものは城内に入れるべからずと韃靼国王からの通達あり、家来の手前城にいれることはできないと悩む、錦祥女であった。
そこへ一官の妻が「それでは私だけを城内に入れてくれ、このような年寄りの女、何もできるはずがない。心配なら私を縛ってもよいから。」と訴える。縛って入れると言う事であれば、国王にも言い訳が立つということで、妻一人縛られて城内に入る。
錦祥女もこの時期に日本からやってきた父親の意図は薄々察したため、もし夫との話が上手くまとまれば、城から流れる川に白粉を、上手く行かなければ紅を流すから、お父さんたちはそれを待ってくれと言い残す。
甘輝館の段
女中たちが錦祥女に指示され、歓待のために一官の妻に、唐揚げや様々の料理を出すが、手をつけない。「むすび」が食べたいと言われて何か分からず戸惑う女中たち。異文化に接した人のカルチュアショックを上手く描いている。
甘輝将軍が帰館し、一官の妻は祥女とともに明再興のための助力を願う。「自分も多勢に無勢やむなく韃靼国王に従っているが、有力な味方があるならば明再興の努力をしたい。」こたえる。「しかし、その前に。」と刀を抜いて、祥女に切りかかる甘輝。妻は驚いて祥女をかばう。「乱心か?味方をするのがいやなのか」
「そうではない、明再興のために戦うのは構わないが、韃靼国王より和藤内には気をつけよと言われ、もし万一国内で見つければ必ずやとらえて見せると公言してきた。まさか我が妻の兄弟とはつゆ知らぬ事。妻に泣きつかれて寝返った男だと、敵のそしりを受けては男がすたる。妻とは関係のないことと明らかにするために、かわいそうだが死んでもらう。」
一官の妻「祥女は私にとっては大事の娘。目的のために継子を見殺しにした冷酷な女と言われては私の恥。いや日本人の恥。この子を殺させるわけにはいかない。」
祥女「父が命がけで日本から戻ってきて、明再興のために尽くそうというのを私も助けてやりたいから、どうぞ私を殺して。」
三人がそれぞれの思惑で、争っていたが、「この交渉は決裂だ。」ということで、祥女は手筈通り紅を川に流すのであった。
紅流しから獅子ヶ城の段
城外で様子を見ていた和藤内は川から紅が流れてきたのを見つけ、これは残念無念交渉は決裂か。それでは母を助けに行かねばと、城内に入り込むのであった。
和藤内は館に入り、甘輝と対面する。
和藤内「何故、我々に味方してくれないのか。我らに何か不満があるのか。」
甘輝「そうではない。味方する気はあるのだが。」
「まして我らは錦祥女の身うちではないか」
「それよ、それ。何かと言えば妻の身内だという言葉が出る。妻に引かされて味方するとは思われたくはない。」
和藤内はかっとして刀を抜き、二人は一触即発の状態。
そこへ祥女が現れ懐剣を胸に突き立てたあり様を見せる。川に流れた紅は祥女の流した血であったのだ。
「私はみんなで力を合わせて、明の再興のために戦ってほしいのです。私の存在がその障害となるのであれば、喜んで命を捨てます。あなたも、私が死ねば誰からもそしりを受けることはありません。」
あまりのことに呆然とする二人、わっと泣き伏す老母。
二人は気を取り直し祥女の息のあるうちにと、衣服を改め出陣の支度をする。
甘輝は和藤内に向かい「これからはあなたは国性爺鄭成功となのり大将軍として出陣されよ。」と宣言する。
老母は祥女に向かい「二人は立派に出陣するから、あのあり様しっかと目にとめておきなされ。」と言いながら、祥女の懐剣を取り、自分の胸に突き立てる。
「ここで私が永らえば、娘一人をむざとは死なせぬといった言葉は嘘となる。韃靼王は母の仇妻の仇と思えば、相手を討つ力にもなろう。私たちもこれで思い残すことはない。」と息絶えるのであった。(女二人の死がついに男たちを決断させ、明の再興へとつながっていく、戦ったのは男だが、その背中を押したのは女である)
これでお芝居はお終いですが、続きが気になる人のためあらすじを紹介する。
その後二人は、明の皇子を助けて山中に潜んでいた忠臣呉三桂とめぐり合い、力を合わせて韃靼王を討伐する。
日本に残っていた妻こむつと栴檀皇女は夢のお告げを受けて、中国に渡るべしとやってくる。
こうして皇子を帝位につけ、明は再興しめでたしめでたしの結末を迎える。
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