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「おろしてくれ-背中の時計。全てが焼きついちまってるんだ。時計が重いんだよ-ねえ、おっ母さん、おろしとくれ。おろしとくれ。おっ、おっ母さあん。このままじゃ、永久に、もう永久に子の刻-おっ母さん!」という、先の戦争の悲痛な枷=責任を背負ったかのような人物の最期の口上が実にあっさりとしたものになっていた。またそれに関連して、その後、鼠小僧達が頬かむりを取った顔にはケロイド痕がなかった。最も抒情的というか、この作品の革命性を主張する仇討ち場面の天野演出の処理は不満が残った。かつての再現を行ったところで、それこそ「再現」以上の何物をも生み出さないのは明らかである。だが、戯曲という素材をいかに調理して今という時代に手触り確かなものに仕立てあげるかという点で言えば、十分に達成されていたとは言えない。とは言え、その代わりと言えば難だが、別の視点にこの舞台の白眉さが認められるのは確かだ。