「厚い手のひら」 井上優(ゆう)

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November 1, 2011
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カテゴリ: 詩集
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子どもの黄色いクツ



 福島の震災ボランティアへ行った

 防護服無しでは テレビ局も立ち入らない

 原発から40km地点の小名浜海岸


瓦礫の山に 呆然とし

TVプログラムを見るように

現実感は湧かなかった

車を降りて無残な建築物の

写真を撮った


 そこで初めて

 現実が僕に訪れた


瓦礫の下に

小さな黄色いクツを

片方だけ見つけたのだ


 僕のまわりを覆っていた皮膜が破れた

 ベトナムの人達が集団で 

 日本の被災者のために

 祈っていた

 彼らの故国でも そうであったように


 その意味は分らなかったが

 アヴェマリアの単語だけはわかり

 やがて

 アヴェマリアの祈りを捧げているのが聴こえ

 こうべを垂れ 共に祈った


 多くの家々は 津波で柱だけが残され

 家の中はといえば

 流されずに残った家財が

 時を忘れて たたずむ


家の中 子供の椅子に

亡くなった子を いたんで

泥で作ったウサギが

リボンをつけて 座らせてあった


 一歳半の自分の子シオンが

 泥のウサギ として そこに

 座っていると想像すると

 発狂しそうに狂おしくなり


僕は思わず 黄色い小さなクツを 

思い切り抱きしめ続けた

   ○

こらえて

5分間車で走り

小学校の校門の前で

 大声で

 涙で熔けるように

 泣いて 泣いて 泣いて

 泣いた

それでも 避難所での炊き出しの為に

トイレの鏡の前で 笑顔の練習をした


   ○


一緒に炊き出しをした

ベトナムの人たちと握手し

英語で ぽつり ぽつりと

小さな黄色いクツのことを話した

互いに 目を 瞳を 見つめ合い

涙をこぼした ドボドボと

彼らの瞳からも ドボドボと涙がしたたった



http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1106099708/subno/1





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最終更新日  November 1, 2011 10:13:05 PM
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