放浪の達人ブログ

ガイド



仕事やプライベートで海外にはよく行くが、宿を取ったり観光したりといった事に
今まで日本から手配をしたりガイドを頼んだりした事はない。
自分のペースで歩き回りたいので全て行き当たりばったりである。
けれど今回初めてガイドというものを現地で手配した。バリ島最高峰の聖なる山
「アグン山」にアタックしたのだ。事前に調べたら登山道らしきものはなく、
かなり危険な登山という事だったのでやむを得ず雇う事にしたのである。
中3の息子と2人で夜中に麓まで行き、ガイドの案内でジャングルを抜け岩をよじ登り、
日の出前に山頂に立った。インド洋のはるか彼方から昇って来た朝陽はまさに神秘的だった。

さて、通常ガイドといえばその場所の由来やらなんやらを丁寧に説明してくれて
俺達お客となる側は「ほ~」とか「へ~」とか感心するものであるが、
今回俺達についたガイドは100%山だけのために生まれて来たような男で、
きゃしゃな身体に似合わず走るように先を歩いて行く。話せるのはインドネシア語だけである。
俺も息子も山にはよく登るし、山では人並みよりも元気な方である。
けれど現地のガイドには敵うはずもなくガイドについて行くのに精一杯であった。
リュックに入れた水を飲むきっかけすらなくただひたすら這うように登った。
中腹の岩場には緑色の恐竜の卵がそこらじゅうに転がっていた。
息を詰めて眺めているとふと我に返る。徹夜で超ハイスピードの登山のため
立ったまま寝ていたというか幻覚を見ていたのである。
今まで登ったどの山よりもキツくて危険な山であった。
足を踏み外せば確実に死に至るような急傾斜の岩場もガイドは走るように登り降りして行く。

俺と息子は山男としての、いやオーバーに言えば日本人としてのプライドがあるので
「てめ~待ちやがれ、絶対ついて行ってやる」と意地になって食らい付く。
普通はガイドの方が「ハイ、ここで休憩ね」とか言うはずなのだろうが、
お客のこちら側が「休憩しようぜ」と声を掛けるのであった。
休憩時にインドネシア語で話しかければ色々と話が弾むのだが、
また歩き始めると俺達の存在は眼中にないように先を歩いて行ってしまうのだ。
そして下りの残り15分、遂にガイドはラストスパートをかけて走り出した。
俺と息子も走る。何という意地の張り合い。もう登山ではなくレースであった。

それでも彼が嫌いになったかと言うと別にそうでもない。
むしろ尊敬の念すら感じたぐらいだ。お客がどうであろうが彼は彼の山を歩いていた。
俺達は彼について行く事で日の出前に山頂に立てたわけだし素晴しい達成感を味わえた。
いや、それどころか彼がいなければ登り始めの段階で
登山ルートを見つけることすら出来なかっただろう。

下山後に「今からもう1往復登れるかい?」とガイドに訊いたら
「ああ、もちろん」と平然と答えてきた。負けました、完敗です。
でもあんな自分勝手なペースで歩いてガイド料もらえるんなら俺もやってみてえな。
日本じゃ絶対無理だろうなあ。1日でクビになるって。

アグン山の夜明け1


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