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A氏 :78年に刊行したというと、もう 30年以上前 だね。
私: そのせいか、紙質がよくなく、黒っぽくて、字が鮮明に浮き上がらないね。
ところで、内容だが、 独特の風太郎調
で面白いね。
山田風太郎は 史実に精通していて、それを踏まえながら想像の世界を展開
するね。
新政府は京都から東京に首都を移したから、その治安のため、 川路利良
大警視
をはじめ 6千の警官を擁したという警視庁
を作った。
それにまつわる話で、ミステリアスな事件が次から次に発生するのを描いている。
この頃の世情がよくわかるね。
A氏 :しかし、 江戸無血開城 で東京の治安はよかったのではないの?
私
:武家政権が崩壊して、 失業した武士が大量に発生する時期
だね。
この小説にも、 元彦根藩士が煉瓦街の大工
、 元佐野藩の剣術使いが西洋絵師
、 お城坊主が大蔵省の役人
と新しい世にセミのように抜け変わっていく姿が描かれているね。
当時、近代化がスタートしたばかりの日本で、 警察官の汚職
が少なかったというのは、警官に 武士出身
が多かったせいかね。
武士道
が生きていたのかね。
A氏
:君のブログの「 日露戦争に投資した男・ユダヤ銀行家の日記
」によるとこの日記を書いたドイツ系ユダヤ投資銀行家 ジェイコブ・シフ
が箱根電鉄で箱根に行く途中、お祭りで酔った若者が線路を妨害する。
警官が怪我をしながら追い払う。
シフはお礼にお金を差し出すが、警官は断わる。
日本の官吏、お役人が清潔なことに感心
しているね。
私
: 政府
といっても、 当時は薩長の独裁政治
だね。
戊辰戦争
で、 政府軍
にはむかった 東北の藩
は徹底的にやられるね。
この小説にも、南部から東京に出稼ぎに来ている青年が3人登場する。
東條秀教
、 米内受政
、 板垣征徳
だ。
この3人の子どもが 東條英機
、 米内光政
、 板垣征四郎
だ。
この3人は 太平洋戦争に活躍
する。
山田風太郎は、これは 南部盛岡という石棺から飛び出した太平洋戦争の水滸伝的現象
だという。
A氏 : 日清・日露戦争 の軍の幹部はほとんど 薩長人 だというのと対照的だね。
私
: 日清・日露戦争
は、薩長人がうまくやったが、 やっと薩長閥からはいあがった東北出の将軍が主役となる太平洋戦争は敗北
だね。
ちなみに 山本五十六
も 奥州と組んだ朝敵越後長岡の出身
だという。
上巻は10の話からなるが、 最後は牢獄の話
だね。
驚いたのは 当時の死刑の数
の多さだね。
明治6年946人
、 7年で722人
、 8年で451人
だという。
A氏
: 裁判制度
も確立していないし、 近代的なヒューマニズム
などないからね。
今の中国のようにそういう厳しさが変動期には治安を保つには必要だったのかね。
私
:江戸の牢屋は伝馬町にあるものが有名だったというが、 明治8年
にこれが火事で燃える。
ところが、 江戸幕府時代
には「 切放し
」という 不文律
があり、消火後帰らなかったら罪が重くなるとして、 囚人が焼死しないように解き放つ
のだという。
そして、 山田風太郎
は、そこで、元来日本には劇的なヒューマニズムの例は稀だが、 このヒューマニズムには圧倒
されるという。
牢屋の管理には幕府時代には 牢奉行
というのがあり、これが 石出家の世襲
で、最後は 石出帯刀
だった。
この人が 明治8年
の伝馬町の牢が燃えたときに 新政府
では通用しない「 切放し
」を行い、 同時に切腹
するという話になっているね。
もっとも、「 切放し
」は明治政府も引き継いだようだがね。
まだ、下巻があるので、2,3日かけて読んでいきたい。