舞台を中心に活躍していたサム・メンデスは『アメリカン・ビューティー』(
1999
)で映画監督デビューし、
72
回アカデミー賞では作品賞ほか
5
部門で受賞した。『
007
スカイフォール』(
2012
)『
007
スペクター』(
2015
)も監督している。芸術性と娯楽性どちらも兼ねそろえた作風である。『
1917
命をかけた伝令』(
2019
)に続き監督・製作・脚本を手掛けた作品が本作だ。
1980 年代初頭のイギリスのケント州北岸の街、マーゲイドの映画館「エンパイア劇場」が舞台である。そこに働くヒラリー(オリヴィア・コールマン)は過去に辛い体験をして、今も心に問題を抱えていた。支配人からのセクハラにも耐えていた。トリニダード・トバゴ出身の青年スティーヴン(マイケル・ウォード)が新たな同僚として現れる。黒人として差別され続けてきたスティーヴンと偏見を持たないヒラリーはやがて恋仲になるのだが、ヒラリーは感情の起伏が激しく、時に常軌を逸した行動を起こしてしまう。彼女は心の病を抱えていた。そして彼女は、以前入院していた精神病院に再び入院することになってしまう退院後、映画館の仲間たちに優しく迎えられる。
サッチャー政権が始まったばかりのこの頃のイギリスは、経済的に行き詰まり、移民攻撃や人種差別が激しい時代でもあった。スティーヴンはレイシストたちから標的にされてしまい大けがを負い、病院に担ぎ込まれるのだった。
支配人役のコリン・ファースの憎まれ役は珍しい。支配人のほかの映画館のスタッフは疑似家族のように描かれている。映写技師ノーマン(トビー・ジョーンズ)がスティーヴンに、映画の原理を説明するシーンがある。1秒 24 コマの静止画であれば、フィルムの間の闇が知覚されず、動いているように近くする「ファイ現象」だ。冒頭で映るロビーの標語「暗闇の中に光を見出す」と響きあう。
『炎のランナー』のプレミアイベントが行われる場面があるが、この映画は 1981 年作品。監督のヒュー・ハドソンは今年の 2 月に亡くなった。
『ブルース・ブラザース』『レイジング・ブル』『オール・ザット・ジャズ』『トランザム 7000 』『 9 時から5時まで』『エレファントマン』などが上映中の映画やポスターで出てくる。
スクリーンに映る映画としては『大陸横断超特急』。 1976 年作品で、監督はアーサー・ヒラー。ジーン・ワイルダー、ジル・クレイバーグ、リチャード・プライヤーなどによる傑作コメディ。昨年公開のブラッド・ピット『ブレット・トレイン』では、この映画を思い出した。もうひとつは『チャンス』。映写技師がヒラリーのために映す映画だ。 1979 年のハル・アシュビー監督作。ピーター・セラーズとシャーリー・マクレーン。「人生は心のありようよ」は『チャンス』からの引用だ。
オリヴィア・コールマンとマイケル・ウォードがいい。撮影はロジャー・ディーキンス。ヒラリーとスティーヴンが眺める花火の場面がすばらしい。
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