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かれこれ20数年、アマオケでヴァイオリンを弾き続けて、いろいろな曲を経験すると、「いつかはやってみたい」という曲がどんどんできてくる。そして、その思いが後に実現するということもあった。そしていつしか、やってみたい曲はどんどんマニアックなものになりつつあったりする。この曲は現在一番やってみたいと強く思う曲の一つだ。とはいえ、それはステージを進んでいってみたいという感覚ではなく、本当に好きだからやってみたいものだ。
エルガーは「威風堂々」で知られるイギリスの作曲家。実家は楽器商で、音楽にまつわるものはたくさんあったらしく、スコアを片っ端から読みまくって、作曲を勉強したそうだ。しかし、先日このページに書いたシャブリエと同様、親の反対もあってそれだけで生計を立てることは許されなかった。しかし、それでも作曲は続けて、ヒット作が出たのをきっかけに、プロとしてデビュー。その時に彼を支えたのがアリス夫人であり、結婚の際に「愛の挨拶」を贈ったというのは有名な話だ。
この曲は「威風堂々」ですでにブレイクした後、満を持して作曲され、1908年に初演された。地元イギリスでは大反響を呼び、初演から1年で100回も演奏されたそうだ。「おらが国」に世界的な作曲家が出たことはやはり喜ばれたのだろう。ちなみに、以前イギリスから来た留学生が「クラシックに別に興味があるわけじゃないけどエルガーはよく知っている」と言っていた。初演したリヒターは特に緩徐楽章をベートーヴェンのそれに匹敵すると評価し、またブラームスの第5交響曲だと評する人もいた。そこまで言っていいんだかどうかというのは、それらの作曲家の曲をしっかり勉強しないと言えないことなのだとは思うが、とてもいい曲だというのは、確かに思う。
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冒頭の主題は、全曲中に何度も出てくるのだが、とにかく印象的。イギリス紳士が高貴な感じで歩いてくるというイメージ(ちなみに、スコアには「高貴に、かつ素朴に」という指示が書いてある)。調性は変イ長調、とても優しい感じである。初めてこの曲を聴いた時、この旋律が耳から離れなかったことをよく覚えている。
冒頭の主題が一通り終わると、今度はいきなりニ短調に転調し、目まぐるしい展開に変わる。冒頭の主題の印象があまりに強すぎるので、最初はあまりよくわからないなと思ったが、何度か聴いていくと、その渋い雰囲気にはまってくる。実際には冒頭の主題がいろいろと形を変えて埋め込まれている、凝ったつくりになっている。途中、金管楽器がバリバリ鳴っている場所の音の進行は、少し後に書かれたヴァイオリン協奏曲と雰囲気が似ているところがある。
しばらく紆余曲折を経た後、変イ長調の和音が戻ってくるところは、ちょっとした感動ポイント。しかし、冒頭主題が戻ってくるのかと思いきや、ますます激しい展開になっていき、金管の咆え具合も大きくなっていく。最後は再び変イ長調に戻り、静かに終わる。
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第2楽章:
スケルツォとは書かれていないが、それに当たる楽章。嬰ヘ短調で何ともせわしない感じでスタートする。スコアを見て驚いたのが、この楽章は2分の1拍子だということ。ほとんど見たことがない表示。なぜ4分の2ではなく2分の1とわざわざ書いたのかというのは興味深いところだ。また、2部のヴァイオリンが交替で演奏する部分もおそらく対向配置でやったら面白いかも。途中、簡素な中間部には変ロ長調の爽やかな場所があり、ヴァイオリンのソロなども活躍する。小さな川の近くの風景を見ている雰囲気だ。そして、再びせわしない感じが戻ってきて、それがだんだん緩やかになっていき、アタッカで第3楽章へと続いていく。
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第3楽章:
初めてCDを買って聴いた時に、しばらくこの楽章を何度も聴いたほどはまった楽章。響きが優しく温かい、こんな曲があったんだと感動した。ゆっくりとニ長調で始まる旋律は、実は第2楽章のせわしない旋律と同じだったりするのが面白いところ。また、CDを聴いているだけでは気づかないのだが、旋律はシンコペーションで書かれているため、不思議な揺らぎが生まれている。その後、ちょっとしたエピソードを挟んで、ヴィオラとチェロでイ長調の旋律が朗々と歌われる(ちょっとラフマニノフの交響曲第2番第3楽章を連想するところがある)。ここは夕日の輝きを想像してしまう。その後、また先ほどのエピソードを挟んで少し陰のある盛り上がり方をするが、再び優しいニ長調とイ長調の旋律が続けて戻ってくるところが感動ポイント。そして、最後はもっと穏やかに歌って遠ざかるように終わっていく。
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前の楽章から一転、暗い雰囲気でスタートする。ニ短調で現れる主題はこの楽章の中で何度か出てくる。冒頭主題もすぐに登場するが、こちらも暗みを帯びている(その後一瞬だけ変イ長調で姿を見せるのが印象的)。しばらくするとヴァイオリンの急速なパッセージを合図に激しい音楽が始まる。こちらはとにかくどんどん推進力を持って突き進んでいくのが基本型。途中ゆっくりとしたエピソードが挟まれるが、こちらはハープによる装飾があり、何とも切ない雰囲気がする。
そして、この楽章の主題を合図に最後の部分へ突入。だんだん変イ長調へと和音が近づき、ついに冒頭主題がやってくる。今度はいろいろな楽器で装飾されてさらに堂々とした雰囲気。最後はスピードを増していき、華やかに終わる。この最後の部分も最初ここだけ何度も聴き直したことを覚えている。
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この曲、今でこそ日本語版があるのだが、初めて聴いてからいつか演奏したいと思って、早い段階で高い洋書版のスコアをわざわざ買って持っていた。もちろん、スコアを見ながら聴いてみるといろいろな発見がある。例えば、「一番後ろのプルトだけ弾く」という指示がある場所が数カ所ある。これを本当にやったらどんな響きがするのだろうと思う。本当に響かせたポイントではsonore(歌って)とたくさん書いてあるのも特徴。また、とにかく書き方が細かいために、交通整理は大変そう。ごちゃごちゃした感じとか、とりとめがない感じなどもちょっとあるのだが、それも一つの味だと言えるのかもしれない。そういうところも含めて、まぎれもなくエルガーの曲だと感じることができる。
この曲を聴くと思うのは、涼しさを感じる部分と包み込むような温かさがうまくミックスされているということ。演奏はけっこう難しそうだし、いかにもわかりやすそうな作品かと言われれば、それで貫徹されているわけではないので難しいところだが、難解というわけでもない。もっと演奏されてもいい曲だなと思っているが、果たして自分で演奏できる日は、いつやってくるのだろうか。
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