今年一月、サドラーズで(マシュー・ボーンの『白鳥の湖』の)王子を見たときは、一人で舞台をさらってしまう圧倒的な、 そして、あざといまでの演技にひいてしまって、サイモン(= Simon Wakefield) のほうがいいかなと思ったのでしたが、彼の表現の残像が今に至るも消えないのです。あのとき、サイモン王子がよかったのは、マシュー・ハートとのダブルキャストになる緊張感が作用したのだと思います。あのだめサイモンさえも触発されるくらい、マシュー・ハートが出演するというのはカンパニーにとっても事件だったのではないでしょうか。今になって言うのもなんですが(見ていない人に言うのがとくに申し訳ないですが)あの、いつもおどおどしている、生きる痛みを内包した王子は、本当に素晴らしかったです。