がんとその死に関してふと思う

それはがんの増加である。
MRSAなどの耐性菌や今回の鳥インフルエンザと言った感染症の懸念はあるが
基本的に、このがん死の増加というのは変わらない流れだと思う。

科学技術の進歩に伴い、人は色々な薬や手術手技を発展させてきた。
それにより、昔だったら確実に命を落としていたであろう疾患で
命を落とすことがなくなった。
今、うちの病棟にいるひどい大腸炎の患者さんも
抗生剤と点滴がなかったら、恐らく2週間前には亡くなっていたはずだ。

で、今日医療系メルマガで送られてきた記事。
『厚生労働省は2日までに、がん患者が受けた診療内容や、
その後の経過などの情報を全国的に集積する
「がん登録制度」の整備に乗り出した。』というもの。
目的は
『全国どこでも質の高いがん医療を受けられるようにして、
日本人の死因1位のがん減少につなげるため』と。

…減るの?

純粋かつ妥当な疑問だと思う。
新しい治療を発見したり、標準治療を決める事で
経済的で効果的な医療を行なう事は出来ると思う。
ひいては、QOLも上がるかもしれない。
が、がん死が減るか、と言われると、自分にとってそれはそこはかとなく疑問。
人の死は避けられない。
そして、医療技術や栄養の向上に伴い伸び続ける平均寿命＝長引く老化のプロセス。
癌が細胞の遺伝子異常により生まれ、
常にいくつかのがん細胞は私たちの体に存在し、
体の抵抗力の低下などに伴い増殖していくものである事を考えると
どうしたって長く生きれば生きるほど
癌が疾患として出てくる可能性は上がらざるを得ない。
がん死を減らすには、癌にかかる前に皆様早くくたばっちゃうのが一番。
て言うか、延びる寿命とがん死の増加は、どうしたって切り離せないものだと思う。

問題は、癌にかかった後の治療における費用対効果。
そして、患者のQOL。
同じメルマガに在宅で終末期をすごしたいと思う患者が60％いるのに対し
実際の率はたったの13％。
大半が病院でなくなっている。
と言うか、今のシステムだと病院で亡くならないと
バックアップのシステムがなくて家族も面倒見切れないし、
亡くなった後の手続きも煩雑だったりするのだ。

病院にいる事での患者のQOLの低下。
医療者側の負担の増加。
そして、施設に入る事での自然な費用負担の発生。
そういった事を考えると、
がん死の低下を目指すよりも、
いかに低費用低負担でがん患者のケアを行なっていけるかに
焦点を当てる方が得策ではないだろうか?

個人的には、その鍵はコミュニティ・ケアが握っていると思う。
今いる豪州はSydneyにおいて、コミュニティ・ナースやPT、OT、SWといった
患者をサポートするシステムが日本に比べたら格段に多い。
自分が日本でいた病院で見れた範囲内で少なかっただけかもしれないが、
それでもやはり、この国の患者を退院させる早さや
その後のフォローアップの仕方を見ていると
いかに大病院から患者を出して、地域で過ごさせるかが重視されてると思う。
はっきり言って、怖い。
問題もある。
が、それでも、患者が「患者」でなく
一人の生活する「人間」としてよりよく生きるのは
むしろこうしたサポートに囲まれて一生懸命生きるこちらの国に軍配が上がると思う。

避けられない人の死、特にがん死に対して取り組むならば、
むしろ今の病院主導の医療システムにメスを入れることが先決ではないかな、と思う。
もちろんすぐに大病院に頼ろうと思う日本の患者根性も問題だが
その辺の意識改革こそもっと積極的に行なわれていいはず。
それをし辛くするような制度を作り上げていくのも必要。
まあ、それをしてはいるのだけれど、
なかなか変わらないと言うのが現状である事は確かなのだけれども。
あまりに急速に進む日本の高齢化社会を考えると
国はもっと大きく梶を動かしていいと思う。

なんて、少し真面目に考えてみた今日この頃。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　10. 01. 2006

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