売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2023.03.27
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カテゴリ: ファッション
ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリ、そして東京と続いた2023年秋冬コレクション、一段落です。近年メディアが記事をアップする前にショー視察した業界関係者が写真付きでコレクションをアップ、ショーの日の深夜にはたくさんのSNSを読むことができる一方、ファッション媒体の記事はどうしても翌日以降になってしまいます。そのスピード感の違いから、SNS読者を多数持つインフルエンサーが主要メディアより影響を及ぼす例も今後はもっと増えるでしょう。

個人のSNSは自ら感じたことをストレートに書く主観的レポート、SNSフォロアーから客観性を求められることはないのでおかしなサジ加減はなくてわかりやすい。メディアはなるべく公平な客観報道を目指しますから、個人のSNSよりはどうしても優しい表現になります。本当は批判したくても色々配慮してもどかしい記述も中にはあったりしますから、概して個人のSNSの方が小気味良いと感じることがあります。

私がニューヨークで取材活動をしていた頃はまだインターネットが存在せず、ショーを観て慌てて記事を書く必要はありませんでした。が、ショーが終わるとすぐ記事を書いて、7番街(通称ファッションアベニュー)にオフィスを構える日系企業でファックスをお借りして東京に送稿しました。現地のニューヨークタイムズやWWDのコレクション記事は翌日の紙面、その前に送ることで自分なりの批評を伝えたかったからです。

素晴らしいコレクションに触れると、日本に伝えたくて自然と行数は増えました。有名デザイナーでもつまらないコレクションなら行数は短く、時には批評はあえて書かずに写真だけ掲載することもありました。私が取材活動をしていた時代はアメリカンスポーツウエアが右肩上がり、カルバンクライン、ラルフローレン、ダナキャランらのアンクラインやペリーエリスが市場を牽引し、オートクチュールのようなエレガントなドレスをつくるデザイナーに新鮮味はありませんでした。

ラルフローレンがサンタフェスタイルや伝統的プレッピースタイル、植民地時代のインドを彷彿させるコレクションを打ち出す。カルバンクラインはパリを代表するブランドから広報ディレクターを引き抜き、素材も縫製仕様も上質なものにバージョンアップしたシックなスポーツウエアに路線変更して話題になる。新星ペリーエリスはトレンドセッターそのもの、毎シーズン記事の行数は増えました。




(2枚とも当時のペリーエリスコレクション)

1980年代前半のこと、あるベテランデザイナーとライセンス契約していた日本の大手アパレルメーカーの社長から「ベテランデザイナーのこともちゃんと書け」と合同展示会の会場で怒鳴られたことがありました。上から目線の失礼な言い方でびっくりしましたが、「ニュース性があれば書きますよ」と返しました。

時代を牽引するクリエーションがあったり、素晴らしい映画を観たときのような感動があれば、ショーの臨場感を読者に伝えようと行数は長くなり、掲載写真の枚数も増えます。客観報道のスタンスは意識していても、人間ですから、魅力的コレクションを観たらテンションは高くなります。

また、いくらトップブランドであろうとも良くないコレクションは良くないとはっきり書くべきと思って取材をしていました。だから私の記事のクレームがたびたび繊研新聞社に届き、編集局長らはクレームを突っぱねてくれました。

帰国してCFD(東京ファッションデザイナー協議会)を設立したのでコレクション記事を書く仕事から離れましたが、その頃からずっと気になっていることがあります。日本のデザイナーあるいはファッション系企業は記事に細かく注文を付けたがる点です。ちょっとでも批判めいたことを書くと広報担当は書いた記者を呼び出して文句を言う、あるいは「ご理解いただいていないようなので」と趣旨を説明する。デザイナーご本人が出てきて不満をストレートに言う場面も日本では多すぎます。

CFDが東京コレクションを主催していた時代、デザイナーとジャーナリストの記事トラブルの仲介は少なくありませんでした。記者やフリージャーナリストのコレクション評が納得できず、メディアに対してのみならずCFDの私にもよくグチが入りました。時には両者の仲介ご飯に立ち会うことも、批判的な記事を書いたジャーナリストに次シーズンから招待状を送らないというケースの仲裁にも当たりました。

ニューヨークで批判的な記事にいちいち抗議する、もしくは次から招待状を送らないなんてケースに直面することはなかったので、CFDを始めた頃は日本のデザイナーとジャーナリストの関係は歪だなあと思いました。いまその状況はどうなのかと言えば、ネガティブな記事を書くとブランド広報からクレームが届く、あるいは呼び出されるケースはいまも続いています。インタビュー記事であれば掲載前に原稿チェックを要求するケースもファッション流通業界では少なくありません。事前チェックなんて本当に失礼な話なんですが。

SNSが発達したためか、欧米主要メディアのコレクション記事も最近はかなりトーンダウンしたように感じます。以前のように名物ファッション記者が強い論調でコレクションをバッサリ切るなんてことは少なくなりました。ジャーナリストとデザイナーが真剣勝負するのがコレクションだったはず、時には有力ブランドであっても内容が良くなければきっちり批判する記事も読みたいものです。





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Last updated  2023.03.31 23:36:23
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