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本書、三上延氏の『ビブリア古書堂の事件手帖』は、わたしにとって初めての三上延作品だ。古書を題材に、推理し、問題を解決するとは、よく考えたなと感心する。
本書は三話からなっているが、全体を通して條川栞子の母が、テーマになっている。
エピローグ
ビブリア古書堂に、ファックスが入った。「桃源社刊・国枝史郎『完本蔦葛木曽棧』をさがしています。後ほど電話します」と書かれてあった。
第一話 アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワNV文庫)
ビブリア古書堂の常連の女子高校生・小菅奈緒が、中学1年の妹・結衣の書いた読書感想文を持って現れた。アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』の感想文だ。
條川栞子はそれを読んで、これは本人が書いたものではないことを見抜いた。栞子は、この本の文庫本を3冊持っていた。最終章が書かれている完全版と書かれていない物があった。同じ本なのに違うのだ。
栞子は、結衣を呼んで事情を聞くことにした。
第二話 福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)
栞子と大輔は、大輔が高校の時に付き合っていた高坂晶穂の家に、出張買い取りに行った。死んだ父親の蔵書があるのだ。
2人が本の査定をしていると、大輔があるメモを発見した。「『葛木曽棧』を探してお」まで見た彼は、「アッ」と言った。先日、ビブリア古書堂に入ったファックスの原稿だったのだ。あのファックスは、晶穂の父が亡くなる前に、ビブリア古書堂に送ったものだったのだ。
それを見た栞子は、ひらめいた。
第三話 足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)
大輔は、栞子の母のことをあまり知らない。栞子が話したがらないからだ。第三話では、その母のことが、具体的に示されている。
ある日、須藤という中年の男が、段ボールの箱に本を入れて、買い取ってほしいとやってきた。その時、須藤は「足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』はいくらになるか」と聞いた。栞子は、100万単位だと答えた。
須藤は、納得したようだったが、突然いなくなった。
翌日、栞子と大輔は須藤の家を訪ねた。
すると、須藤の口から栞子の母・智恵子の話しが飛び出してきた。
本書を読んでゆけば分かる通り、大輔は栞子に心を寄せている。ところが、栞子は、10年前に突然、家族を捨てて失踪した母の血を自分は受け継いでいる。その血は、決していいものではない。だから自分は一生結婚しないつもりでいると告白する。
栞子は母を軽蔑しているが、その母と自分は似ていることを自覚しているのだ。
それを聞いた大輔は、自分の気持ちを栞子に伝えているわけではないが、動揺する。
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