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2008.01.24
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テーマ: いい言葉(571)
カテゴリ: 文学・芸術
▼最後の薔薇
イェイツと薔薇の物語も今日が最後です。

その最後の詩として、『最後の詩集』の中から「青銅の頭像」を紹介します。

A Bronze Head

HERE at right of the entrance this bronze head,
Human, superhuman, a bird's round eye,
Everything else withered and mummy-dead.
What great tomb-haunter sweeps the distant sky
(Something may linger there though all else die;)
And finds there nothing to make its terror less
Hysterica passio of its own emptiness?

ここ、入り口の右手にある、この青銅の頭像。
人間的な、超人的な、眼だけが鳥のようなつぶらなほかは
すべてしぼんで、ミイラのように死んでいる。
墓場をさまよう女性はどれだけ尊く、遠くの空を見渡し、
(すべてが死んでいるが、何かが漂っている)
そこに、自分の恐怖を自分の空虚さから生じる発作的激情に
変える力を減じさせるものなどないことを知るのであろうか?

No dark tomb-haunter once; her form all full
As though with magnanimity of light,
Yet a most gentle woman; who can tell
Which of her forms has shown her substance right?
Or maybe substance can be composite,
profound McTaggart thought so, and in a breath
A mouthful held the extreme of life and death.

かつては墓をさまよう暗い女性ではなかった。
容貌は麗しく、輝ける寛大さを身にまとい、
素晴らしく優しい女性であった。一体誰が
どちらの姿が彼女の実在を正しく表していると言えようか?
あるいは、実在とはそのような混合物なのかもしれない。
かの博識なマクタガートが考えたように、たった一呼吸に
究極の生と死が内包されているのだ。

But even at the starting-post, all sleek and new,
I saw the wildness in her and I thought
A vision of terror that it must live through
Had shattered her soul. Propinquity had brought
Imagiation to that pitch where it casts out
All that is not itself: I had grown wild
And wandered murmuring everywhere, "My child, my
child! '

しかし、つややかで真新しい門出であっても、
私は彼女の中に野生を見た。そして彼女が経なければならない
恐怖の幻影が彼女の魂を粉々にしたと思うのだった。
近親性は、それ以外のものは一切追い払う想像をもたらした。
私も野生になり、そこらじゅうをさまよって、
「わが子よ、わが子よ!」とつぶやいた。

Or else I thought her supernatural;
As though a sterner eye looked through her eye
On this foul world in its decline and fall;
On gangling stocks grown great, great stocks run dry,
Ancestral pearls all pitched into a sty,
Heroic reverie mocked by clown and knave,
And wondered what was left for massacre to save.

あるときはまた、私は彼女の中に超自然を見た。
彼女の眼を通して、より荘厳な眼が、
衰退と凋落が進むこの汚れた世界を見ているかのようだった。
ひょろ長い一族が権勢を振るえば、それまで権勢を誇っていた一族は枯れ果てる。
先祖伝来の真珠は豚小屋に投げ込まれ、
英雄の物語は道化やごろつきにあざけられる。
眼は訴える、虐殺を防ぐ手立ては残されていないのか、と。

いかがでしょうか。薔薇は出てきませんでしたが、お気づきのように「彼女」とはモード・ゴーン、イェイツの永遠の薔薇でした。「青銅の頭像」とは、ダブリン市営ギャラリーの入り口付近に展示された、青銅色に塗られた石膏でできたゴーンの頭像のことであるとされています。

ゴーンの頭像は生気がなく、墓場をさまよう、干からびたミイラのようでしたが、眼だけは輝きを失っていないと詩人は言います。かつてはその眼を通して、詩人自信も野生に目覚め、狂おしいばかりに人生を歩んできたんですね。イェイツは、ゴーンの眼を通して、古代ケルトの英雄たちを見て、そこに理想を見たのではないかと思われてきます。

晩年のイェイツとゴーンの関係は良好ではあったようです。だけど政治的にはイェイツが、まずは自治権を得たほうがよいとする現実派であったのに対し、ゴーンは依然としてアイルランドの完全独立を目指す理想主義者でした。ゴーンは、過激派組織IRA(アイルランド共和国軍)とも密接に関係していたようです。

老いてなお理想に燃えるゴーンを見て、イェイツはあきれつつも、感嘆せずにはいられなかったのでしょう。イェイツが死ぬ数ヶ月前、捕まったIRA活動家からゴーンの密書が見つかったことを伝える新聞記事を読んだイェイツは、両手を天に広げ「なんという女だ! なんという生命力! なんというエネルギーであることか!」と嘆息したと言われています。ミューズとして霊感をもたらし、常に驚きを与えてきたゴーンは、紛れもなくイェイツの人生の薔薇であったと思わずにいられませんね。

薔薇





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最終更新日  2008.01.24 12:25:34
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