風光る 脳腫瘍闘病記

フラッシュバック



「って、何あたしってば少女マンガの世界行ってんのぉ~・・・顔がかゆい」

私は両手首を縛られたままだった。

「先生っ、もしも~し」

「んあ?」

「先生、起きてよ。ちょっとこれ外してくれない?」

「あっ、おはよう。落ち着いた?」

「うん」

「分かった。じゃあ、外してあげる」先生は慣れた手つきでベルトを外してくれた。

「苦しかった~」
私は思いっきりのびをした。その時、医長のオカちゃんが顔を覗かせてきた。

「おはよう、愛ちゃん。おじさんビックリしたよ」「精神的に苦しかった?」

「まあね・・」

「ゆっくり、焦らずやっていけばいいいよ」オカちゃんは笑いながらそう言ってくれた。

でも私の不安な気持ちは雪だるま式に大きくなっていく一方だった。

私は毎日、神様にお祈りをした。

「もう2度と悪い事はしませんっ!だから一生のお願い、歩ける様にしてくださいっ!」

でも歩ける様にはならなかった。「今までに100回ぐらいは一生のお願いしたからなぁ・・・」

悪魔にもお願いしてみた。

「魂あげるから歩けるようにして!」

でも無理だった。

誰も助けてくれない。次に私は私より不幸な人達の事を考える様にした。

「同時多発テロで亡くなった人達に比べれば私はまだ幸せだよ、3食昼寝付きで治療も受けられて・・・」

でも何をどう考えても自分が世界で1番不幸な状態になってしまって最後はやはり「死のう・・・」という結論にしかならなかった。死んだら楽になれる。死ぬしかない。私は売店でカッターを購入した。

左手首にカッターの刃を当てる。でも怖くて中々切る事が出来ない。

「何てあたしは臆病な人間なんだろう?」「今死ぬしかないんだって!いけっ、思いっきり切れっ」そう自分でいい聞かせてもカッターで手首を切るのが怖くてどうしても出来なかった。

私は日本の法律を恨んだ「何で安楽死制度が無いのだろう?年に3万人は自殺者がいるのに何で死ぬ時まで痛くて、苦しくて、怖い思いをしなきゃいけないんだ?楽に逝かせてくれればいいのに・・」

涙が溢れ出てきた。感情的になった私はその勢いで左手首を切った。
でも死ねなかった。

オカちゃんが

「愛さん、人間はそうは簡単に死ねないって」私はその言葉を聞いてフラッシュバックしてしまった。

「・・・・だの?」

「えっ?」

「じゃあ、何でお姉さんは死んだの?」

「亡くなったの?」

「私が入院する3ヶ月前に自殺した・・・」あの時の光景が脳のスクリーンに次から次へと映し出された。

「首が・・・首が・・えぐれてた・・・」

「首が・・・」「何で死んだの?ねぇ、何で死んだの?簡単に死ねないんでしょ!?だったら何で死んだの?」私は次第に苦しくなって過呼吸をおこしてしまった。

「私が死ねばよかった」心からそう思った。健康なお姉さんが死んで車いすの私が生きて・・・こんな事があっていいのか?

「先生、死にたいよ・・・」「殺してよ」その日、私は一生分の涙を流した。


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