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2020.08.30
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「ビートル将軍、第3要塞が突破されました。地下シェルターに退避願います。」
カブト虫のビートル将軍は目をつむり、瞑想するかの様に佇んでいた。
「いや私は結構。君達こそ退避してくれたまえ。今までよく尽くしてくれた。礼を言う。『ありがとう』私は死んで行った者達の元に留まる。」
「将軍・・・・・・」
それはまだ数時間前だった。人間どもが大挙して押し寄せ、虫達の家を踏みにじり、ひっくり返し、女子供も容赦なく連れ去り、あらん限りの破壊の爪痕を残し、今最後の砦に迫ろうとしていた。
中でも悲惨を極めたのがブロックや石や腐葉土を寝ぐらとするダンゴ虫達だ。彼等は危険が迫ると丸まって身を守るしか術を持たない。反撃するなどまるで出来ない者達だ。逃げ足も遅く、ミミズの様に地下に潜る事もできない。
人間達は虫達が食料としていた草も、それこそねこそぎ略奪して行く。
ほとんどの虫達はただ逃げ惑うのみだった。
だが若干ではあるが抵抗を試みる者もいた。
「サンダーホーネット第5中隊、ブン太少佐が敵の右腕に毒針を命中。敵は退去しました。」
指令本部は一斉に歓喜に満ちた。
「しかし、毒針は少佐の内臓ごと脱落。ブン太少佐は戦死されました。」
「うん、彼を大佐にニ階級特進せよ。奴は鼻っ柱が強く、時には樹液をめぐり争った事もあるが、残念だ。」ビートル将軍はうなだれた。
「ムカデ戦車隊の百郎隊長は、敵の指先に後一歩の所まで迫るも、発見され長靴の下で圧死。」
「あいつと私はまだ地中で幼少の頃からの付き合いだったが、腹が減っていないときは、物静かな男だった。」
「将軍、報告します。ただいま野バラのロージーさんが、敵の指先に彼女の棘で一矢を報いた模様。」
ビートル将軍は一瞬表情を緩め、「民間人である彼女のけなげな反撃に、尊敬と称賛の意を表したい。」と言ったが伝令は、
「しかし彼女は強制撤去されました。」と続けた。
それを聞き将軍の瞳は悲しみに満ち溢れ、椅子に突っ伏してしまったのだった。
やがて一人となったビートル将軍は、去って行った者達の事に思いを巡らせていたその時、いきなり天井が引きはがされ、夕日の赤い日差しがなだれ込んで来た。
その夜、町の公民館では今日の合同草苅の慰労会が開かれていた。世話役の自治会長が、
「泰造さんは蜂に刺されたらしいけど大丈夫かい?」と聞いた。
泰造さんは、「なーにあんなもん、ションベン引っ掛けときゃなんでもねえよ、会長。」と得意げに笑って、うまそうにビールをあおった。
「さすがは年の甲。」と自治会長も笑いながらビールをつぎ足した。
その横では、子供達が紐で繋いだ大きな栓抜きを一生懸命引っ張る、かつては将軍と呼ばれたカブト虫が一匹。





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最終更新日  2020.08.30 00:49:20
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