CHANT PAUL / WHITE CLIFFS OF DOVER (FELSTED 8696)'64
唱法もサム・クック風ならメロディもサム・クックっぽい64年のディープ系ソウル。いや、サム・クック風唱法だからこそメロディもそれっぽく聴こえるのか(笑)。原曲は1942年の Vera Lynn
のようで、年度や場所を考えると第二次世界大戦の連合国軍のことを歌っているのかも知れませんね。情緒的で甘いメロディは実に心に沁みますが、戦中にもこんないい曲があったんだなと驚かされました。カバーであるCHANT PAUL版の方は効果的な女性ヴォーカル、甘く品の有るストリングス、鳥の鳴き声、エコーのかかった手拍子などを取り入れ原曲よりもずっと情報量が多く楽しめる内容です。ちょっと古めかしい香りも味があっていいですねえ。
GEATER DAVIS / FOR YOUR PRECIOUS LOVE (ALBUM VERSION) '71 「Sweet Woman's Love」
Jerry Butler and The Impressionsによる1958年のヒット曲のディープソウル・カバー。Otis Reddingなど多くの歌手によってカバーされているけど、ディープ者なら1971年のGEATER DAVIS版は必聴でしょう。ここで注意が必要なのは『ソウルはシングル盤が基本』という鉄則通りにシングル盤しか聴かないでいると、このGEATER版の真の魅力に気づけないということ。実はGEATER版はシングル版が3分15秒なのに対してアルバム「Sweet Woman's Love」収録版は8分36秒とシングル版の2倍以上の長さなのです。アルバム・バージョンのどこが良いかというと、シングル版では終盤に2回しか聴けなかった悶絶級の絶唱シャウトが10回も堪能できること。情感深く、声質、迫力とも申し分のない実に感動的なディープ・シャウトです。GEATER DAVISのアルバム版が他の多くのカバーと一線を画すのは将にこの一点に尽きると言って良いでしょう。
1970年と少し古めの女性サザンソウル。甘茶ソウルというには少し無理があるかも。ザ・ガールズとグループ名義だけどコーラスが入ることは無く、ほとんど女性シンガーのソロ作といった感じ。調べてみると彼女達は「OVATIONS / HAVING A PARTY」でバッキング・ヴォーカルとして歌ったユーラ・ブフォード、マキシン・ジョーンズ、マリー・デイヴィスがメンバーのようです。
J.P. Robinson / Our Day Is Here (Blue Candle 1504)'74
1965年から1974年にかけて10枚ほどシングルを残したマイアミのディープソウル歌手のシングル曲。Clarence Reidが作曲&プロデュースをしています。曲は哀愁に満ちたメロディが秀逸なサザン&ディープソウル。イントロのストリングスは上品でありながら、日本人の琴線に思いっきり触れる大泣きのメロディ。その後も全体を通して「これでもか!」ってぐらい哀愁感たっぷりに曲を盛り上げ泣かせにかかります。お歌の方も情感深く歌われるキャッチーなサビ、高いテンションを維持したまま更なる盛り上げりをみせるAメロと共に出来は良い。全体として一分の隙もない素晴らしい構成で、2分弱と短い分ぎゅっと凝縮された芳醇な悲しみの味わいがここには有りますね。でも流石に短すぎ!ってことなのか1976年に Jimmy Beaumont And The Skyliners
によって3分弱ほどでカバーされました。こちらも哀愁のギターが特徴的な素晴らしい出来。というか、この曲はどう料理しても良曲に仕上がりそうですね。
FRANKIE GEARING / SPINNING TOP (Beale Street Records 1179)
1970年代に活躍したデトロイトの黒人女性三人組ヴォーカルグループ、Quiet Eleganceのリードヴォーカルだったフランキー・ギアリングのソロ曲。Carl Simsのシングルを出していた南部メンフィスのBeale Street Recordsから出ています。曲はテンポの速いポップでキャッチーなサザンソウル。明るく爽やかで実に快活な印象を受けます。サビは少し暗めだけど、それ以外はかなり明るめかつ肯定的で将に70年代的な明るい未来への憧憬で満ちてますね。 Quiet Elegance / After You
同様DAN GREERの作品。サウンドもポップだしサザンソウルの入門編的作品としても適当かも。因みにスピニングトップとは(回る)独楽のこと。
JESSE LANKFORD / WHAT'S A MATTER BABY (Polydor PD 2-14025)78?
ヒューストンの白人歌手JESSE LANKFORDによる1962年のTimi Yuroのヒット曲のカバー。(secondhandsongs.comによると23ものカバーが存在します。)てっきり黒人歌手かと思っていましたが、どうやら白人のようですね。6オクターブの声域を持つ歌手としてヒューストンでは人気があったとのこと。彼の1978年のアルバム「We'll Take Our Last Walk Tonight」にも同曲のクレジットがあることから(プロデュースは同じHUEY P. MEAUX)1978年頃の作品と思われます。曲は明るく晴れ晴れとした女性コーラスを導入しカバーの中でもかなりポップな内容。JESSEのヴォーカルは瑞々しく明朗で、力強く伸び伸びと実に気持ちよさそうに爽快に歌い上げます。6オクターブの声域の持つ余裕からなのか、流石の歌いっぷりで実に魅力的ですね。快活な曲調&唱法は相性バッチリでメロディの出来も良く、聴いていて楽しい気分にさせてくれます。もっと彼の歌声でこうした明るい良曲のカバーを沢山残して欲しかったですね。
CODY BLACK / STRANGER THAN A FAIRY-TALE (PAMELA 7454)'62
60年代から70年代にかけて主にデトロイトで活躍したディープ系歌手のシングル曲。コディ・ブラックは THE NIGHT A STAR WAS BORN
で当ブログでは既出です。彼の自作の本曲はデビューシングルということもあり、上記曲とは唱法も声質も大部異なる感じ。年代的にはソウル黎明期の1962年産ということでアレンジは全体的にあっさり味。メロディにも派手さはないけれど上質で品の良さを感じさせるもの。「おとぎ話よりも奇妙」と繰り返す歌詞にはちょっとした夢やロマンも感じさせますね。唱法としてはサムクックの影響を強く感じさせますが味があり、後半に盛り上がる箇所なんかは後のディープソウルの隆盛を予感させます。ソウル黎明期の隠れた名曲ということで。
米南部テネシー州出身で元ソウルチルドレンのディープ歌手、J. BLACKFOOTの1983年のヒット曲。曲名がタクシーということで将にタクシーへの呼びかけるスタイルの曲構成のディープバラード。効果音を交え臨場感のある内容はなかなかドラマチック。メロディの出来も良くかなりキャッチーで、ディープソウルの入門編としてもお勧めできますね。曲は「Johnnie Taylor / Separation Line」や「Luther Ingram / If Loving You Is Wrong」を書いたHomer Banksが作っているのは納得です。これだけの名曲ですが、意外にカバーは少ないようで見つかったのは下記の3曲で出来もいまいち。尚、P-Vineからの編集盤ではアルバムタイトルになっていますが、ジャケは何故か渋谷駅前のスクランブル交差点のアメリカ仕様なのが面白い。
Charles Allen Music / We Got Love (EJA RECORDS 333)'76
Bar-Kaysでトランペットを吹いていたチャールズ・アレンの1976年のシングル曲。ソロとして3枚のシングルを出していて内もう一枚は本曲の再演盤で「Charles Allen / We've Got Love (PART1.2) (GREEDY RECORDS G-113)'77」として出ています。曲は軽快なピアノが映えるアップテンポのディープソウル。明るく爽やかな曲調でディープが苦手な人でも比較的聴きやすそう。メロディも良質で歯切れのよいコーラスも効いてますが、何といっても全編に流れる軽快なピアノの奏でるフレーズがすこし切なくキャッチーで良い。曲の出来の良さ故か1977年に再演盤が出る訳ですが、こちらはすこしテンポを落としたディープ・ミディアム。ストリングスを大幅に導入し、かなり華やかになりフィリー風に仕上がってます。こちらはこちらで十分魅力的で出来は甲乙つけ難い感じですが、個人的には純朴で切ないピアノの響きが魅力的な前者に軍配をあげたい。みなさんはどちらがお好きでしょうか。
60年代中期からMARVIN L. SIMSの名前で活躍していたシカゴのディープ・シンガー、マービン・シムズの甘めのサザン・ソウル。まあスウィートソウルと言ってもおかしくない内容ですね。ゆったりとしたリズムに淡く爽やかなサウンド。「夢を夢見て」というタイトル通り、メロディも多幸感に満ちた甘いもの。声質はディープだけど優しく歌い上げられ、かなり聴き易い内容です。展開が少し単調なのが玉に瑕。
IDEALS / TELL HER I APOLOGIZE (ST. LAWRENCE 1020)'66
50年代末期からDOO-WOPグループとして活躍していたシカゴのグループの晩年のシングル曲。かつてはMajor Lanceも在籍してたみたい。近年シングルを寄せ集めたCDも出てる。66年のこの曲はバックもしっかり付いたソウル仕立てのディープ風バラード。どこか郷愁を誘う甘く情感深い良く出来たメロディが秀逸で、それをリードがしっとり、こってりと深く歌い込む。時折ファルセットを交えたりと変幻自在の唱法は見事で声質も魅力的。特に1分26秒から「I'M NOT USED TO~」と大きく譜面から外れて歌う箇所は鳥肌もの。全体的に感じる純朴で質素ですこし物悲しい雰囲気も素晴らしいですね。かつて隆盛を極めたドゥーワップの晩年、ソウルへの以降期のこの時期にはこうした隠れた名曲がもっと沢山眠っているのかも。
「YOU TUBE」
で聴けます。なお、シングル・バージョンやKC and the Sunshine Bandによるカバーもありますが、出来が悪いのでスルー推奨です。
JAMES BROWN & THE FAMOUS FLAMES / TRY ME (ALBUM VERSION) LP(KING 851)'63
ファンキー・ソウルの大御所ジェイムズ・ブラウンの58年のシングルヒットを63年のアルバム「PRISONER OF LOVE」に別アレンジで収録したもの。ノリノリのJBもいいけれど、初期の頃こうしたサザン風味の甘いバラードもいいもんですね。冒頭から泣きの入った歌声を聴かせてくれますが、こうして改めてバラードものを聴くとその声質にも大いに魅力があることが分かります。また、この「PRISONER OF LOVE」アルバムバージョンはシングル版と違ってバックに甘いストリングスが入っているので格段に良くなっているのです。