百姓野郎の『ズクなし日記』

百姓野郎の『ズクなし日記』

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2002/08/28
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司馬遼太郎『竜馬がゆく』 文藝春秋

 幕末の史料を買いあつめて書き上げられた名作。だから余談が細かい。昭和30年代、産経新聞社の社長が部数の伸び悩みに困って文藝関係者に相談したら、同社の文化部記者を推薦されたという、『灯台下暗し』を地で行った話しがある。(『中央公論』司馬遼太郎追悼特集号) その記者が司馬遼太郎、本名・福田定一。

 『竜馬がゆく』のファンは多く、有名なのは武田鉄矢で、自分で『おーい、竜馬』と言う作品まで作ってしまった。わが盟友・老上単于君もそのひとり。彼らにとっては『竜馬がゆく』の竜馬にとどまらなかった。一人歩きして坂本竜馬の人格と化したらしい。わたしはそこまでは思い入れていないが、例えば、幕府の偉い人の前にあった饅頭を引っ掴んで喰ってしまう、饅頭は饅頭でしかないという考え方や行動の邪魔になる抽象観念の否定など、勉強になった。

 今にして思えばそれらは、第二次世界大戦に従軍した作者の体験に根ざしたものだと理解できる。日本は開戦せざるを得ない状況にあったらしいが、連戦連敗の末期には「皇軍は勝ち続けている」と参謀本部は嘘を言い続けた。竹槍でB-29を突き落とそうなどという絶望的な時代を、実体がない観念に生死を握られていた時代を生きてきたからこそ、ああいう竜馬像が出来上がったのだと思う、饅頭は饅頭以外のなにものでもないという考えを託して。『北斗の人』『坂の上の雲』など、観念に頼らない技術者たちを書き続けたのも頷ける。

 ・・・・しかし、最終章の「近江路」まできたときは、さすがに悲しく淋しくなった。暗殺されるのはわかっているんだけど、生き延びて欲しいと願った。





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Last updated  2002/10/16 07:28:56 PM


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