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2024年07月09日
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カテゴリ: 経営



 人手不足を背景に企業が新卒者の初任給の大幅引き上げに踏み切る動きが目立っています。2024年の春闘は32年ぶりの高い賃上げ率となりましたが、企業が人材獲得競争から賃上げの原資を新卒者や若手社員に重点配分する賃金シフトが進んでいます。その結果、教育や住宅にお金のかかる40代社員の子育て世代への配分が細る状況を生んでいると言われています。
 マイナビが2023年10月から2024年3月まで大学3年生へ行った調査によると企業選びで重視するポイントを2項目まで挙げてもらったところ「給料の良い会社」が23.6%と3年連続で増えました。就活生の間では企業選びに初任給を重視する動きが強まっているようです。新卒採用では売り手市場が強まり20代では転職も活発化しています。企業は対策として若手の処遇を高め人材確保競争で優位な条件を示す必要に迫られています。
 民間シンクタンクの産労総合研究所が4月に公表した調査によると2024年4月入社の大卒新入社員の初任給は平均月22万6341円、前年比では4.01%増と1991年(5.2%)以来の高水準となりました。引き上げの理由は「人材確保のため」が最も多かったとのことでした。リクルートワークス研究所が4月に公表した大卒求人倍率調査でも2024年4月入社の初任給が前年より増えると回答した企業は49.1%と半分近くに上りました。
 厚労省や東京労働局の調査によれば大卒者の初任給はこの30年間、20万~21万円程度で推移してきましたが2022年以降、サイバーエージェントやファーストリテイリングなどが初任給を大幅に引き上げて話題となりました。2024年4月入社ではNTTグループ、第一生命ホールディングス、長谷工コーポレーションなどでは初任給が月30万円以上になりました。
 初任給は新卒採用市場の企業間競争から今後は30万円が一つの目安として意識される可能性があります。月30万円には満たなくても東京ガスなど前年より20%前後の高い上昇率としたところもあります。こうした初任給急上昇の動きは初任給バブルと呼ばれるようになっています。
 企業の賃金政策で初任給の引き上げは既存社員の賃上げと表裏一体です。賃上げは基本給の水準を引き上げるベースアップ(ベア)と勤続年数や評価などに応じて定期的に引き上げる定期昇給からなります。初任給はとりわけベアと密接な関係があります。単に初任給を引き上げるだけでは新入社員の給与が20代の若手社員と変わらなくなったり、場合によっては逆転が生じたりして若手社員のモチベーション低下や離職につながりかねません。
 このためベアを伴う調整は必須になります。逆にベアを実施する際は通常初任給の底上げが伴います。ベアは職級や勤続年数に応じて基本給を決める賃金テーブルの見直しをすることが多いです。その手法には社員全員に同額を上乗せする一律定額や同率を上乗せする一律定率配分のほか、特定の等級・職位の賃上げを重視する重点配分方式があります。かつては一律の配分が基本でしたが近年は限られた賃上げ原資を効果的に使うという考え方から重点配分方式が増える傾向にあります。
 年功序列型賃金体系は勤続年数に対する賃金水準をグラフに示すと50代を頂点とする山形の賃金カーブを描きます。この30年をみると賃金テーブルの見直しを通じ勤続年数による賃金差は縮小しつつあります。厚労省の賃金構造基本統計調査によれば2022年の賃金カーブを1995年と比較するとカーブの山はなだらかになっています。
 経団連が会員企業に実施している人事・労務調査によるとベアの配分方法は一律定額配分が約半分を占めるが30歳程度までの若手層に重点配分すると回答した企業は2016年の24.4%から2023年には30.2%に高まりました。対照的に45歳程度までの子育て世代への重点配分は5.2%から0.4%へ、45歳程度以上のベテラン層は1.9%から1.1%へと低下傾向にあります。
 個別企業の賃金政策をみると若手社員の賃上げや初任給の増額に原資を多く配分したという説明が多いです。賃上げ率は社員一律とは限りません。20代若手社員に手厚くした分、子育て世代社員が割を食っている可能性があります。また、初任給には固定残業代を含む場合があります。固定残業代を初任給に含めると額がかさ上げされて高くみえる効果があります。
 固定残業代がある場合、企業は固定残業代を除く基本給・固定残業代の労働時間数・固定残業時間を超える時間外労働の扱いなどを明示する必要があります。また、年俸制を採用している企業では年間の額を月ベースに配分して記載する場合、賞与の額が含まれているか別枠かを確認する必要があります。高額の初任給を示している企業は固定残業代を含んでいたり年俸制としていたりするところも多いので表面の額だけに惑わされないようにしなければなりません。
 初任給よりまず、この企業の成績や資産状況が健全なのかどうかを確認したほうが良いです。初任給だけで会社を選べば、入社後の給与が上がらないなどの問題が出てきます。私は初任給よりこれからの成長見通しや給与額を左右する労働生産性といった指標を調べて会社を選びます。しかし、情報開示すら不十分な企業が日本にはまだまだ多いのでそのような会社は除外するのが賢明です。稼ぐ力が欧米企業より弱い日本企業が無理して人材獲得競争を行った証左として初任給バブルがあるのだと思います。





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最終更新日  2024年07月09日 07時51分57秒
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