七つの星降る七つの湖
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ふと気づくと、本屋にいた。なんか、欲しい本でもあったっけ。ん?あの娘の後ろ姿、どっかで見たことあんなぁ。近づいてみたら、恐らく自分の初恋の人であろう女性だった。「あれ、ひさしぶりやなぁ」思わず声をかける。内心偶然の再会に驚いてるはずが、やけに無機質な声のかけ方になった。「・・あっ。ひさしぶり~。元気してた?」「うん、してたしてた。何年ぶりや?9年ぶりとかか」まだ幼かった彼女と私。その頃は、意識なんて全然してなかった。好きやったんかも、って、会わなくなってから思い始めた。「あったあった!ようそんなん覚えてるなぁ」帰りがてら、昔話に花が咲く。「覚えてるよぉ。・・楽しかったなー、あの頃は・・」懐かしくて、どこかくすぐったいような、とても心地いい時間が流れる。「あの頃って・・・今は、楽しくないん?・・でもさ、お前ってさ・・・」そう言いかけて、私は彼女のお腹に目がいった。「・・・・そうかも」彼女はぼそりと答えると、私の視線に気づくとさらに続けた。「結婚すんねん、あたし。・・できちゃった結婚、になるんかな。びっくりした?」彼女は眉をしかめながら、皮肉なくらい可愛く笑った。―でもさ、お前ってさ、今考えたら、あんな時からもうすでに、大人みたいな雰囲気やったよな。頭もよかったし、騒いだりとかも全然なかった。すごい勉強家で、もうあの時点で将来のこと、リアルに考えてたし。ちょっと、変わってたんかもな。でも、めっちゃよく話す娘でさ。ほんで、いっつもにこにこしてたな。あれってやっぱ、初恋やったんかなぁ―流れるようにすらすら出てくる、言いかけた言葉の数々。それが、私の頭の中で何度も反響していた。そして気がつくと私は、ぼろぼろぼろぼろ泣いていた。文字通りその場に立ち竦んで、ひっきりなしに流れてくる涙を、ぬぐうこともせず。彼女と最後に会った、まだ子供だったあの頃のように、ぼろぼろぼろぼろ泣いていた。至極スムーズに、私はそこで目を覚ました。鮮明すぎる夢だった。夢自体、久しぶりに見た。しばらくそのまま、天井を見つめていた。目の辺りに違和感を感じ、指でこする。・・冷たい。ほんの少し、それこそほんの一滴ばかりの涙が、片目からながれていたようだ。「俺、泣いてるやん」誰に言うでもなくそうつぶやくと、我ながらとたんにおかしくなって、吹き出して笑う。寝起きだから、目がシパシパしたんだろうか。うん、そりゃあそうだろう。それだけの話だ。あの娘のことなんて、とっくの昔に頭から消えていたはずだし。・・でも、なんでいまさら、こんな夢を見たんだろう。不思議だった。そして、なにかすごく、もの悲しかった。「今頃、何してんねやろ」ふとそう思ったが、すぐに考えるのをやめて寝返りをうった。勝手に再会して、勝手に脚色して、勝手にふられて・・・。遠い昔の僕の初恋は、ある日突然、夢の中で終わった。多分もう、彼女と会うことはないだろう。少なくとも、私が本屋に行かない限り。(もちろんノンフィクション)
2004.11.03
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