一家心中を見てしまった。
滋賀県の大津営業所には五つ上の厳しい先輩と他人には関心なしという二人の先輩がいた。
僕はこの厳しいちょっと年上の先輩の運転する車の中で不覚にもうとうとと寝てしまった。「眠いんけ!?」僕はまだ気づかれてないつもりでいいえと答えたがそのあと爆弾が落ちた。「だいたいな、上司が運転してんのにしつれいやないけ!」返す言葉がなかった。これ以来だ、何かにつけて文句をつけてくる、いわゆるいじめが始まった。
滋賀県は大津市から琵琶湖の東側にかけて草津市、近江八幡市と東海道沿いに開けている、これと反対に琵琶湖の西側は取り残されたようだった鉄道は湖西線が走り有名な駅といえば雄琴温泉ぐらいか。
新聞は全部で15段、通常上10段に記事が掲載され、下5段が広告面となる。
大津営業所に配属されておよそ半年がたち所長命令で新聞前頁の湖西地方の特集を組めと言い渡された。しかも雪深い湖西地方だ、ぞっとした。
まず木之本の支局へあいさつに行けと言われたのは良かったのだが国道は圧雪がありチェーンを付けないと通してくれない僕はトランクからチェーンを取り出し路肩に寄って後ろのタイヤにチェーンを付けだした。
なれないせいで時間がかかる、手はかじかんでうまく動かないし心無いドライバーには水しぶきをかけられるし、泣きそうだった。
こうして何とかチェーンを装着すると真っ先に支局へ挨拶に行った。
ついたとたんに支局長が「事件が発生したのでこれから出かける、君も来るか?」面白そうだったので「はい、行きます」と答えた。
支局長の車で現場に着くと小さなクレーンが湖に落ちた車を引き揚げるところだった。
フロッグマンが湖に潜り車の後部にチェーンをひっかけるとガラガラという音とともに黒い車が水面上に上がってきた。
今でも思い出すと涙が止まらないのだがその光景は地獄絵図だった。
小さい子供が3人リアガラスにへばりついている、息が吸いたくてもがいたのだろう3人とも後部座席の後ろに折り重なって空を見つめていた。
父親と4人での無理心中だった。
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