東京を出港して2週間、嵐のような台風も東に逃げてしまって太平洋はその名の通りとても穏やかな海へと姿を変えた。
通信工学科の配慮だろうか船内にはホノルルのエフエム局 KIKI が流れ始めた。
長い航海ももうすぐ終わると思うと自然とワクワクしてくる。
海保大卒業生の遠洋航海では僕らはアメリカ合衆国の国賓扱いとなるのでいくつかのスケジュールは決められていた。
ホノルルではパールハーバーのアリゾナ記念館とオールドファッションのロコモーションでパイナップル畑のツアー、そしてコースとガードの太平洋地区司令官宅への訪問、シアトルではボーイング社の工場見学、シアトル日本人会との交流、レーニエ山への登山、などだ。
海の色がエメラルドグリーンに変わるとイルカたちが練習船を先導してくれる。
ダイヤモンドヘッドが見えると僕たちは不思議な感覚になる、当たり前といえばそれまでだが東京の汚い晴海ふ頭とワイキキビーチがつながっているなんていう感覚は飛行機の旅行では味わえない感覚だ。そして、実感するのだ地球は本当に丸いのだと。
勘違いの国際感覚
練習船こじまがアロハタワーの近くのふ頭に停泊すると上から下まで白のダブルの第一種制服はどこから見ても日本海軍に見える。
そんな姿で49人全員がアリゾナ記念館を見学するという感覚はわれら海保大としては間違っていると思う。
アメリカ人にとってアリゾナ記念館は旧日本海軍に奇襲攻撃をかけられ何千人もなくなった悲しい記憶の記念館なのに、そこへどう見ても日本海軍にしか見えない我々がのこのこと行くところではないのだ。
花束を持ちながら慰霊に行くならともかくただ、ここへきて当時の写真を見て帰るというのはどうか?
やはり、我々をみるアメリカ人の目は冷たかった。
とても恥ずかしかった、肩身が狭かったのだ。
みなが We were sorry という感覚でないと国際感覚どころか常識を疑われる。
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