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2016.07.11
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カテゴリ: 探訪

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昨日の朝、玄関を出て数歩歩くと、足元の敷石にセミが腹を上にしていました。
蝉が死んでいるのか・・・・今年初めて見たのに・・・そっと踏まないで先に歩むとなんとその蝉が飛び去ったのです。

昼頃、リビングルームの網戸の外に1匹の蝉が止まっていました。
室内から日の光を浴びて影を長くのばしています。それが冒頭の写真です。
デジカメを持ち出し、外に出てその蝉を撮ってみました。羽化してまだ時間がそれほど経っていないためでしょうか、近づいていきすぐ傍で写真を撮ってもじっとしています。
IMG_2676 (400x300).JPG
その時の写真がこれです。
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IMG_2681 (400x300).JPG 我が家の緑のカーテン オーシャンブルー

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そこで、玄関先の庭に例年のごとく蝉の抜け殻(空蝉)があるだろうか・・・と調べてみると、5~6つありました。

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例年金木犀の木に結構空蝉を見ていたのですが、今年は下枝などをかなり剪断していたので木に空蝉がありません。その代わり、その傍の低木でいくつか発見しました。
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蝉は、卵→幼虫→成虫という不完全変態をする虫で、その生態は未だに充分な解明がされていないようです。それでも、幼虫として地下で3~17年生活し、地上に出てくると夜に周囲の樹に登って、そこで日没後の暗い間に羽化し、羽を伸ばし、明るくなるまでには飛翔できる状態になるそうです。夜間に羽化が進行するのは外敵から身を守る自然の対応なのでしょう。成虫後に野外での命は1か月ほどだとか。 (資料1)

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空蝉をいくつか発見するうちに、金木犀の幹近くに一匹の蝉が止まっているのを見つけました。こちらの蝉の方が大きかったのです。しばらく写真を撮ていましたが、その間びくともしませんでした。
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それがこの写真です。


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数時間後に、もう一度観察してみると、少し止まっていた位置を移動していて、微かな動きが見られます。
そこで改めて数枚撮ってみました。
だが、少し近づきすぎたのか、遂に蝉が一瞬の間に飛翔してしまいました。

蝉の抜け殻が空蝉ですが、風俗博物館のご紹介をまとめていた余韻として、やはり『源氏物語』「空蝉」の巻の蝉の抜け殻の例えの場面をまず連想します。

「そこへ人の忍び入ってくる気配がして、芳しい香の匂いが息苦しいほど漂ってきました。覚えのあるその薫りに、女ははっと顔をあげました。単衣の帷子が引き上げられている几帳の隙間に、暗いけれど誰かがそろそろと、身じろぎしながらにじり寄って来る気配がありありとわかります。呆れはてて、とっさの分別もつかないまま、女はそっと身を起こすと、薄い正絹 (すずし) の単衣一枚をはおって、寝間からすべり出てしまいました。」(資料2)「それでもあの女の脱ぎ捨てていった単衣の小袿を、恨みながらもさすがにお召物の下に引き入れてお寝みになられるのでした。」 (資料2)
 勿論、忍び入るのは光源氏、女は任国に出かけた紀伊の守の妻です。危ういところを抜け出して、衣裳を抜け殻の如くに残したという下りです。

源氏がさりげなく、手習いのように書き流した歌が

  空蝉の身をかへてける木の下に なほひとがらのなつかしきかな  です。

ここから、この紀伊の守の妻が、空蝉と呼ばれるようになります。そして巻の名が「空蝉」です。

山本健吉氏は、「せみ」という発音は漢音センを倭語化して和らげたものだろうと解釈されています。 (資料3)

蝉と言えばだれしも想い浮かべるのは、松尾芭蕉が『奧の細道』において、山形領の立石寺で詠んだ句です。
  閑(しづか)さや岩にしみ入る蝉の聲

紀行文はこの句の前に、「・・・・山上の堂にのぼる。岩に巌を重ねて山とし、松柏年旧 (ふ) り土石老いて苔滑かに、岩上の院々扉を閉ぢて物の音きこえず。岸をめぐり岩を這ひて仏閣を拝し、佳景寂寞 (かけいじゃくまく) として心すみ行くのみおぼゆ」と。 (資料4)

良く知られる俳人が蝉で作句しているでしょうか。調べてみると、ありますね。当然のことかもしれません。

  ひるがへる蝉のもろ羽や比枝 (ひえ) おろし     与謝蕪村

  蝉なくや我が家も石になるやうに          小林一茶

  鳴きやめて飛ぶ時蝉の見ゆるなり        正岡子規

  蝉とんで木陰に入りし光かな             高浜虚子

  深山木に雲ゆく蝉の奏 (しら) べかな           飯田蛇笏

  天界に散華きらきら蝉の昼              山口誓子

  蝉涼し足らぬねむりをねむりつぐ          水原秋桜子

  蝉声しづか門入りし者後は杳と           中村草田男

  蝉の音の万貫の石負ひにけり            加藤楸邨  

    蝉時雨日斑 (まだら) あびて掃き移る            杉田久女  

    声あげて蝉夕風にさからひぬ            中村汀女

  悉く遠し一油蝉鳴きやめば              石田波郷

  天寿おほむね遠蝉の音 (ね) に似たり         飯田龍太

  森抜けしこと蝉時雨抜けてをり             稲畑汀子  

    自我ありて泣くこゑ蝉に敗けてゐず         鷹羽狩行

また、こんな句もあります。
  唖蝉をつつき落として雀飛ぶ                   村上鬼城
  唖蝉も鳴く蝉ほどはゐるならむ                  山口青邨

唖蝉とは鳴かない雌の蝉なのですね。鳴くのは雄の蝉だけなのだとか。雄の蝉は、「腹腔内には音を出す発音筋と発音膜、音を大きくする共鳴室、腹弁などの発音器官が発達し、鳴いてメスを呼ぶ。発音筋は秒間2万回振動して発音を実現するとされる」 (資料1) のだとか。
また、蝉は種類によって鳴く時間帯が異なるようです。
「クマゼミは気温が高すぎると鳴かない、アブラゼミは25度を下回ると鳴かない、ミンミンゼミとツクツクホウシはあまり気温に関係なくずっと鳴いている、ヒグラシは日没付近に鳴くため明るさが第一要因として関係してくる」そうです。 (資料5)

また、和歌にも古代から詠み込まれ続けています。たとえば、

『万葉集』で蝉は一首だけ。後は「日晩 (ひぐらし) 」で詠んでいるのです。
  石走る瀧もとどろに鳴く蝉の聲をし聞けば京都 (みやこ) しおもほゆ 
            大石簑麻呂  巻十五 3617 
当時は広く蝉の総称として「ひぐらし」ということもあったとみられています。

『古今和歌集』には、紀友則の歌が収録されています。

  蝉の声聞けばかなしな夏衣うすくや人のならむと思へば  巻十四 恋 

『新古今集』には、二条院讃岐が詠んだ歌が載っています。

  鳴く蝉の声もすずしき夕暮に秋をかけたる杜の下露  巻三 夏 

西行法師は『山家集』を残していますが、その中に蝉を詠み込んだ歌があります。
    水邊納涼と云事を、北白川にてよみける
  水の音にあつさ忘るる圓居 (まとゐ) 哉梢の蝉の聲もまぎれて  231

    山里に人々まかりて秋の歌よみけるに
  山里の外面 (そとも) の岡の高き木にそぞろがましき秋蝉のこゑ 295

  やなぎ原かは風吹かぬかげならば暑くや蝉の聲にならまし   1019

  空しくて已みぬべきかな空蝉のこの身からにて思歎 (おもふなげき) は 1337

手許の岩波古典文学大系29は『山家集』と実朝の『金槐和歌集』で1冊になっています。実朝が蝉を詠んだ歌には次の歌があります。
    蝉
  夏山に鳴くなる蝉の木 (こ) がくれて秋ちかしとや聲もをしまぬ  170

  泉川ははその杜 (もり) になく蝉のこゑのすめるは夏のふかさか  171

    蝉のなくをききて
  吹 (ふく) 風は涼しくもあるかおのづから山の蝉鳴て秋は来にけり 189

  夏ふかき杜の空蝉おのれのみむなしき恋に身をくだくらむ     413

  木 (こ) がくれて物をおもへば空蝉の羽におく露の消えやかへらむ 415

    桜
  空蝉の世は夢なれや桜花咲 (さき) ては散りぬあはれいつまで   708

「空蝉の」は「世」の枕詞として使われています。

調べれば、様々な歌集の収録歌に蝉が詠み込まれていることでしょう。
手許の本でわかる範囲でもこれだけあります。調べて見るとおもしろい。ご紹介を兼ねた学びです。

詩はどうだろう? ふと思いました。少し検索してみると、中原中也が次の詩を書いています。 (資料6)



(せみ) が鳴いている、蝉が鳴いている蝉が鳴いているほかになんにもない!

うつらうつらと僕はする
……風もある……
松林を透いて空が見える
うつらうつらと僕はする。

『いいや、そうじゃない、そうじゃない!』と彼が云 (い)
『ちがっているよ』と僕がいう
『いいや、いいや!』と彼が云う
「ちがっているよ』と僕が云う
と、目が覚める、と、彼はもうとっくに死んだ奴なんだ
それから彼の永眠している、墓場のことなぞ目に浮ぶ……

それは中国のとある田舎の、水無河原(みずなしがわら)という
雨の日のほか水のない
伝説付の川のほとり、
藪蔭 (やぶかげ) の砂土帯の小さな墓場、
――そこにも蝉は鳴いているだろ
チラチラ夕陽も射しているだろ……

蝉が鳴いている、蝉が鳴いている
蝉が鳴いているほかなんにもない!
僕の怠惰 (たいだ) ? 僕は『怠惰』か?
僕は僕を何とも思わぬ!
蝉が鳴いている、蝉が鳴いている
蝉が鳴いているほかなんにもない!

      (一九三三・八・一四)

本棚の一隅に眠っている中原中也の詩集をチェックする前に、ネット検索で入手。
うれしいことに、ウェブ・サイトがあることを知ったというおまけを得られました。

多分、これは一例にしかすぎないでしょう。探す楽しみが残りました。

蝉からの連想を文学の世界に広げてみました。

今朝、目覚めたとき窓外からの「初蝉」でした。
歳時記によると「その年初めて聞く蝉を初蝉という」のだそうです。(資料7)
ひょっとしたら昨夜、書き始めていたので、意識に残っていただけかも知れませんが・・・・。


ご一読ありがとうございます。


参照資料
1) セミ   :ウィキペディア

2) 『源氏物語 巻一』 瀬戸内寂聴訳  講談社文庫 p131-151
3) 『基本季語500選』 山本健吉著  講談社学術文庫
4) 『おくのほそ道 全訳注』 久富哲雄 講談社学術文庫 p197
5)  気温?時間帯?セミの鳴く理由と条件について   :「多摩から世界へ」
6)   :「中原中也・全詩アーカイブ」
7) 『改訂版 ホトトギス 新歳時記』 稲畑汀子編 三省堂 p481

補遺
「2005年度 第2回夏のセミ調査」結果報告」   琵琶湖博物館
鳴く時間帯によって、セミの種類違うか?   :「au暮らしお悩み交差点」
蝉の鳴き声   自然と環境の学習素材  :「兵庫県立人と自然の博物館」
セミの成虫  富山市の身近な自然調査2012-2016 :「富山市科学博物館」
「蝉類博物館」 ─昆虫黄金期を築いた天才・加藤正世博士の世界─
        :「東京大学総合研究博物館」

   ネットに情報を掲載された皆様に感謝!

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)






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Last updated  2016.07.11 20:34:12
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