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染み入れ、我が涙ーなみだ石の伝説ー飛鳥京香●山田企画事務所
「なみだ石の伝説」第3回
「なみだ石の伝説」第3回
「なみだ石の伝説」
(飛鳥京香・山田企画事務所・1975年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
第3回
そうそう,僕の道ずれについて話すのをわすれていた。
知り合いといっても最近知り合ったばかり。
彼。名前は滝という。偶然に「なみだ石」をみせてしまった。
滝はとてもおもしろい奴だったが、こと、なみだ石のことではしっこく聞き、とうとう一緒に「涙岩」を見るために、頭屋村までついてくることになった。
僕は滝を連れてきたくなかった。他の地域の人間には見せたくないので。
が、滝は、あまりに執拗に食い下がった。
唯一の知り合いなので、無下にことわることができない。
「おい、カンタチ、この駅じゃないのか」
色んなことを考えているうちに、やっとお目当ての駅にたどりついた。
駅の出札口で、駅員(といっても契約社員か)が、私達に話をしかけてきた。
「あんたら、東京の方からきなすったかね」
「ええ、そうですけれど」
僕が、答えた。
「いやな。感でいうたんだが、近頃、このーカ月の間にカンタチ駅で降りる人がたくさんふえてね。それ
であんたら神立山の方へやっぱりいくかね」
「ええ、、、やっぱりの口ですな」
滝は答え、僕の顔を見てニヤリと笑った。
「へえ、仲間がいっぱいか。涙岩のことが知られているのか。雑誌でも紹介されたかな、さては」
僕はこない方がよかったかなあと後悔しはじめる。
「いや、そんなことはないはずだよ。涙岩が、どんな新聞、雑誌にも記事になたったことがない。滝、
君の方がよくしってるだろう」
「そうだな。神立山の方で他に何かあるのか。まあ、いいや。あどうやらあそこがパス停らしいぞ。
レンターカーはない?なにのだな。人口がないから、、商売にならんから、、か」
滝は、しゃべっている間、しきりにズボンの内ポケットの中に手をつっこんでいじりまわしている。
「滝、伺をそりいらいらいじくりまわしているのだ」
「いや何も」
こんどは、ジャケットの内ポケットに手をつっこんでいる。
バスは、十人ほどの近くの村人達をのせて走りだす。
僕は彼女K頭屋村で会えそうな気がしてきた。
彼女に会いたい。
一目でいい。
あの人は頭屋材出身だといっていた。
駅員が神立山の方へ行く人がふえたと言っていた。ひよっと
してその中に彼女がはいっていないだろうか。
いや絶対に帰っているに違いないと僕は思った。
バスは、そう考えにふけっている神立山へむかって坂を下りたり峠を上たり、森林を抜け走る。
あちこちに点在した人家がたまにみえる。しかしめづかしく、でこぼこ道だ。
あまり乗りごこちはよくない。
「日待、何かへんな気分だな。僕の方をみているようだ」
と、滝は、僕、日待明(ひまちあきら)の名前を気安く呼ぶ。
「気にするなよ。僕らのかっこが目立つからだろう・・」
「しかしだな。テレピというものがあるだろう。こいつら、テレビで東京の人間を見たことがないか」
「滝、いいわすれていたけれど、神立山の方は日本でめずらしく電気がとおっていない。だからもちろん、
テレビもみずらい。新聞・郵便物は1週間にまとめてだ」
「へえーー、まるで日本の秘境か、まだ日本にあったか、、だな」
滝がしゃぺった。
「あんたらも、神立山の方へいくだか」
後の座席から、急に声がしてびっくりした。後ろには、市外地の途中のバス停で降りたらしく、もう4人しかいない。
滝がふりかえって答えた。「ええ、そうですけれど」
僕も後を見る。後の方の座席に80才くらいの男の老人がちょこんと腰掛けて、僕たちの方をに
らんでいる。
「僕は、頭屋村の出なんです。頭屋村へかえるんです」
僕が答えた。
「へえ,、そうかいね。,頭屋村のもん近頃、ようバスにのっとるで。また危ない」
「また頭屋村で人がようけいてなくなるやろらだろう・・」
「あんた、そのこというたらいかんがね」
老人の隣にいる老婆が、きつい調子でたしなめた。
「そうやったな。あのこと、を、しゃべったら、それも他の村のものがいうたら、タタリがあるの
やなあ。クワバラ、タワバラやは」
「おじいさん、ひょっとしたら涙岩伝説のことと違う」
滝がしゃぺった。
老人達は、しわい顔をしてだまりこむ。パスの中は、異様なふんいきだった。
やがて、老婆が訟もいきったようすでいった。
「そっちのにいちゃは、頭屋村の人だけど、いま、あのことをいったにんちゃは。村の人と違う
ようだね。そのことは、口にせん方が身のためだ」
「これや、これ」
今度は、老人の方が老婆をたしなめた。いっているのが聞こえてくる。
「ちえっ、しったことかいな」 滝が後を見ずに悪態をつく。
その老人達は、次のパス停で降りていった。残りの2人も山の中に点在するバス停で逃げるよう降りていった。
奥深い山の中を走るパスの中には僕たち二人だけ。
年の若いニキピづらの運転手が、バスを止め、話しかけてきた。
「あんたら、本当に頭屋村までいくの?」
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
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