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キャズム
キャズム
ジェフリー・ムーア 著
感想:
アメリカでは、ハイテク製品を成功に導くためのマーケティングのバイブルとして、スタンフォードをはじめとする多くのMBAコースで支持されている本の邦訳。テクノロジーのライフサイクルにおいては、異なる志向をもった顧客層が標準偏差のグラフの形で存在するといわれる。初期市場における主な顧客である、テクノロジーオタクとしての「イノベーター」と新しいテクノロジーに変革のビジョンをみる「アーリー・アドプター」、そして、メインストリーム市場における顧客としての、実利主義者である「アーリーマジョリティー」と保守的な「レイト・マジョリティー」。それぞれの顧客の志向性により、マーケティングのポイントも異なってくる。例えば、イノベーターはテクノロジーそのものに関心を示すが、アーリー・アドプターは新しいテクノロジーの用途(アプリケーション)によって可能となる変革にこそ興味を示す。おなじように、テクノロジーが一般に浸透し信頼できる商品が市場に出回り始めてからしか手を出さない、アーリーマジョリティーとレイト・マジョリティーにおいても、前者はテクノロジーに対する抵抗はないが、後者ではテクノロジーに対する抵抗から、より手厚いサポートを求める傾向がある。それゆえ、ハイテク製品のマーケティングでは、自分たちがライフサイクルのどこに位置するのかを正確に認識し、その時点でのターゲットに対してポイントを間違えないマーケティングを行なわなければ成功は得られない。そんな中、特に気をつけなくてはならないのが初期市場からメインストリーム市場への移行する際の深い溝=キャズムであり、本書はハイテク製品のマーケティングにおける最大の罠である、キャズムを乗り越えるための処方箋を論述している。
というように、本書の内容はハイテク製品を扱ったものではある。だが、ここに記されたマーケティングの考え方は、決してハイテク製品だけにあてはまるものではないだろう。この変化の時代、いかなる業界においても自社の競争力を高い位置にとどめようと考えれば、非連続なイノベーションによって、市場を活性化する必要が生じることも多々あるだろう。競争戦略の基本が他社とは異なるところに優位性を創出することであるなら、新しい市場をみずから作り出すことで競争相手から身を引き離すことこそ、最大の競争戦略になりえる。その際、それがいかなる市場であろうとも、そこには既存の市場とは不連続なものとなり、そこにはハイテク製品の場合となんらかわりのないキャズムが存在するだろう。その意味で、本書は一般的なマーケティングに関する本だと思って読んだほうが役に立つはずだ。
最後に、本書でなにより印象的なのは、その後半部の論述である。
キャズムを越えるという、企業にとって新たな市場を開拓し成功を得るという面の裏側に、成長にともなう痛みが隠されていると著者は論じている。その痛みに耐える準備ができていなければ、無事、キャズムを超えたとしても、真に成功といえるほど、市場を拡大していくことはむずかしい。痛みに耐え切れず、市場のニーズに応える体力が企業から奪われてしまう場合があるのだ。もちろん、その痛みを感じるのは、個々の人間である。そうした面をしっかり論述している点にこそ、本書の魅力はあるし、そうでなければマーケティングなどという仕事はできないのだろう。きわめて論理的に論考されてはいるが、その実、そういった感慨深さのある本である。
点数:
おすすめ度
★★★★★
わかりやすさ
★★★☆☆
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