レビットのマーケティング思考法

レビット

レビットのマーケティング思考法 本質・戦略・実践
セオドア・レビット 著



感想:
マーケティングが存在しない企業はない。「顧客を引きつけ、維持するという企業目的を達成するために、総力を挙げてやらなければならないすべてのことを、一手に引き受けるのがマーケティングである」とレビットは言っている。したがって、レビットはマーケティングを、スペシャリストだけに負わされた責任としてではなく、CEOの仕事であるとし、マーケティングを経営の中枢的機能として捉えている。「人は製品を買うのではない。製品がもたらすベネフィットに対する期待を買うのである」という限りにおいて、企業の事業活動は、製品・サービスを開発、製造するプロセスではなく、顧客を満足させるプロセスであるといえる。実際に顧客がお金を払って購入する製品・サービスだけでなく、通常、おまけのように扱われる顧客サービスなども含めて、顧客の眼から見た全体的な視点で「製品とは何か」を正しく定義し、顧客へのバリュー・デリバリー・システムとして事業を設計する必要性が説かれている。
この考え方は先に紹介した 『サービス・マネジメント』 にも通じているが、実際、1974年に出版された本書は他にも、その後のいろんなビジネス書に通じる論点が挙げられている。大企業においてはなぜイノベーションがうまくいかないのかという問題は 『イノベーションのジレンマ』 が扱った問題のコアな部分に触れるものであるし、市場学習曲線と顧客セグメンテーションとの関連性を扱った部分は 『キャズム』 を想起させる。そうした意味で、本書は、マーケティングを経営の中枢的機能として扱っている他のさまざまな考え方の本質的な部分を最初にとらえた本であるといえる。企業におけるマーケティングの重要性とその力について明確に示していながら、それでいて、本書には「マーケティング・コンセプトの限界」に1章を割かれている点も、レビットがマーケティングを実際の事業の現場で機能する戦略的ソリューションとして捉えていることがわかり、好感がもてる。この点がレビットを「マーケティング・ストラテジスト」として、コトラーなどの「マーケティング・サイエインティスト」とは異なる点だ。本書に書かれているのは、マーケティングの理論でもなければ、ターゲティング、セグメンテーション、ポジショニングなどの理論化されたマーケティング・ツールのことでもなく、実際の事業活動の中で、マーケティング的視点で考えることとはどういうことであり、そこにはどのような現実的な問題の発生とその対処が必要であるかなどの実践的な思考について書かれたものだ。それは具体的なツールとして準備されていないという意味ではそのまま使えるものではないかもしれない。だが、より本質的な思考が丁寧に実践的に示されている意味では、本書を読み、理解することによる実践的な意味でのマーケティング効果はより現実的な成果につながるだろう。真にマーケティングを理解したい人には強くおすすめする。


点数:
おすすめ度   ★★★★★
わかりやすさ  ★★★★☆
役立ち度    ★★★☆☆



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