文の文

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sarisari2060

sarisari2060

2007.01.04
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カテゴリ: ひとりごと
昨年十二月三十日のこと、
十二月のはじめに亡くなった叔父の霊前にお線香をあげようと
長岡京市に向った。

堀川今出川から四条河原町まで、タクシーの窓の外には暮れの風景が広がる。
買出しに出かけるひと、もはや大きな荷物を抱えているひとも多い。

高島屋に入っている鳩居堂でお線香を買って阪急ののりばへ急ぐ。
行き先は「長岡天神」。急行の車掌にこれでいくのか、と確かめる。
車掌はこれでもいけるが、特急のほうが早いと答える。

阪急の特急。二人がけのシートが並ぶ。
もう30年も昔のことだが、この阪急の特急車両で痴漢にあったことがある。
女子大生のわたしは大いに困ったことだった。
そのときは長岡天神には止まらなかった記憶がある。
逃げるように席を立ったわたしは十三につくまでの長い時間
ずっと外の景色を眺めていた。

始発なので空いた車内だが、無意識に出口近くに腰掛ける。
今は女性専用車両もあるらしい。
つまりいまでもそういうことがなくなってはいないということなのだろう。

地下を走っていた電車が日差しをあびるようになると
だんだん風景がのどかになっていくのがわかる。
自分の思いも少しずつほどけていくような気がしてくる。

長岡天神で降りてまたタクシーに乗る。
叔父の家まではバスがない。
こちらが行くことを連絡していないので、
タクシーで乗りつけ待っていてもらうことにする。

見覚えのある門のインターホーンに名前を告げると叔母の声が震える。
「きてくれたんかいな」

門から玄関までの敷石を踏む。左手に庭が広がる。
前に来たときは叔父が庭仕事をしていた。
柘植の木を植え替えるのだと言っていた。

引き戸を開けると従兄弟のお嫁さんが出てきた。
20数年前にあったきりなので向こうは覚えていないようだ。
しかしこちらはわかる。べっぴんさんの面影は健在だ。
こちらが名乗ると、「ああー」と思い出してくれた。

奥の座敷に、たくさんのお供えに囲まれた叔父のお骨と写真があった。
ちょっと斜めからこちらを振り返ったような写真だった。
「どないしんや?」と問いかけてきそうな顔つき。
ゲートボールで日焼けした肌がつややかだ。

「元気やったんやけどなあ~」
一カ月入院して、逝ったのだという。
その最期が潔い。
死にたいと言い募っても死ねない老人も多い。

戒名に空と光が入っていた。
叔父にふさわしいものだと感じた。
線香をあげ、焼香をした。
線香の煙は真っ直ぐ立ち上っていった。
手を合わせて南無阿弥陀仏と唱えた。
こころのなかで、「ありがとう」を繰り返した。
わたしはこの家では特別にしてもらっていた。
ほんとうにありがとう。

「おおきにおおきに。ようきてくれたなあ。
おっちゃん、よろこんだはるわ」
叔母の声がまた震える。
こちらの目もうるんでくる。

叔母の肩を撫でながら「おばちゃんは達者でいてな」というと
今度は叔母の目がうるんだ。

「生まれ変わりみたいにひ孫が生まれてなあ。
おんなのこやねんけど、これがまたかいらし子やねん」
そういうと潤んだ目が和んでいく。
いのちは未来に繋がっていく。

お嫁さんがお茶を出して、なにかしらはなしかけてくる。
受け答えしながら、荷物に手を伸ばす。
「タクシーを待たしてますし、これで失礼します。
おばちゃんのこと、おねがいします」
と言いながら玄関にむかった。

「なんや、もう帰るのんかいな」と叔母が言う。
「また来るし」とその手を握って玄関を出た。

敷石を踏むと涙がこぼれた。
叔父ちゃん、死なはった、死んでしまわはった
そんなことばが胸をよぎった。

「お待たせしました。長岡天神までオネガイします」
鼻をすすりながらそう告げた。
ドライバーは丁寧に「かしこまいりました」と答え、
車は来た道を戻る。
錦水亭の庭が見え、やがて駅前に着いた。

そして阪急とバスに乗り換えて姑のいる家に向った。
お正月が来るのだった。





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Last updated  2007.01.05 01:15:33
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