chiro128

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ミッション


例えばアポロ13号は空を駆ける3頭のペガサスの絵。(アポロシリーズは常にギリシア神話を意識している。)若田光一さんの初搭乗した時のエンブレムは人工衛星を回収するスペースシャトルとそれを見る宇宙遊泳中の宇宙飛行士が描かれている。軍事利用の場合、その柄の中に白頭鷲が描かれているはずだ。地上でもそれぞれの部署ごとにエンブレムがあって、それでどこの人か判るようになっている。
ミッションを任務と訳すのは簡単だ。しかし、その言葉以上のものがある。宗教上の勤めをもミッションと表現するくらいだから、この言葉は「成し遂げねばならない重要な意義のある任務」という含みがすでにある。

今日もお気楽な彼らは食事に出かける。昨日も一昨日もそして明日も。彼らの毎日の仕事はパソコンに向かい合うこと、人の番組にケチを付けること。提案は「こういうものを書いたら?」と上司に言われれば書く。取材は新聞記事とネットの検索を中心に合理的に行なう。上司に進み具合を聞かれると、この間会った評論家の意見をパパッと要領よく話す。上司はふーんと言いながら一応聞く。上司の質問も待たず、お気楽だから食事に行く。仲間は大事なのだ。
昼のニュースをいつもの和食屋の汚いテレビで見る。「若田光一さんを乗せたスペースシャトル、エンデバーは予定通りに日本の実験用人工衛星の回収に成功しました。今回のミッションでは・・・」
ニュースを見ながら、言う。「若田さんっていい人みたいですね」こっちが一年後輩だ。「まあ努力家って顔してんもんなあ」日替わりは刺身定食。山葵をちょっとだけ入れて通のふり。菊の花は避けておく。使い方を知らないだけ。
「今、何やってんだっけ?」先輩が聞く。後輩が応える。「いやあ、取材ですよ。阪神大震災のおかげで去年出した提案ができなくて、今更それをやる訳にもいかないし、別ネタで、△△さんがこれどう?って言い出したんですけど。先輩、山葵いつもそんな少ししか使わないんですか?」「だって、これ本当は毒消しだろ。昔と違って、今は鮮度がいいんだからそんなに使う必要ないんだよ。今はむしろ、ちょっと味を付けるってくらいでいい訳だから」「先輩いろいろ知ってますよね、いつも思うけど」「まあね」彼が読む本は多くて月に3冊。彼女なし。取材は嫌いだが、人目につかない場所に消えるのは得意。11時過ぎに現れ、深夜までいるのが好き。哲学っぽい本をたまに読む。この手の話で煙に巻ける上司も多々いるのだ。
食事が終わり先輩が言う。「じゃあ、俺、行く所あるから」「あ、はい。白板にはなんて書いておきますか?」「新宿。16時には戻るよ」後輩は思う。また消える気だな。週に2回はこれだ。「はい、書いておきます」「じゃ」
上司の言い出したネタを調べるため、職場へ。パソコンを叩き、エクスプローラーを開けると、いつもながら彼は楽しい気分になった。ちょっと後ろめたい気分もあったが。ネットの先を覗いている限り、一応仕事に見えた。ちょっと横道に逸れて余計なページも開いてしまう。でもそれも取材の内。
そこ頃、先輩は本屋にいて、ぴあを見ていた。今日の映画、近々の演劇。そう、彼は演劇なんかも見るのだ。好きなのはコンドルズと言うらしい。今時の人なのだ。音楽は室内楽も聞くが、今はノーラ・ジョーンズが好きだ。やっぱり賞取るやつは違うよな、と、言う。コンサートのチケットはレコード会社の人に送ってもらったりしている。そう、業界なのだ。

日本人を乗せたスペースシャトルがあるとNASAの広報は多忙になった。取材対応が山ほどあるのだ。すべて狙いは日本人搭乗員。そしてみんなが同じものを同じように、しかし自分のカメラに収めていく。撮影も忙しいから横並びである。それでOK。多忙な割りには撮影は簡単。
撮影地にはバスで連れて行く。その方が簡単だから。同じ時間を自由にして、全部一緒に連れて帰る。自由時間は勝手にさせておく。日本人同士で夜の約束を決めて、次の日には二日酔いになって現れる。予定のものを撮って後はお気楽な海外出張を楽しむのだ。

心配しなくてもいい。業界に近く、その上仕事のできない奴と、業界から遠く、その上仕事のできない奴が多いのだ。そこまではいい。しかし、世の中には努力ってことがあるんじゃないだろうか?

先輩は17時過ぎにとぼとぼ帰って来た。あの後輩が目に入る。「よお」「お疲れさまです」そんな挨拶。隣の席に座り、PCを立ち上げる。そう言えば、後輩の方は昼からずっとここに座りっぱなしだ。忙しい上司にはその姿も見えない。二人並んでネットの中を覗き込む。特に話すこともない。

ミッションとまでは言わない。しかし、自分の仕事に意義を感じることはないのだろうか? テレビだからこそ、という話ではない。どんな仕事にも意義があるはずだ。(たとえ、ただただお金のため、というのでも。)適当にやっている、外向きは格好いい仕事。それがテレビ局で多くの人が実際にしていることだ。どの局でもそうだ。更に状況は多少厳しくなるとはいえ、多くのプロダクションにもこういう人物は多い。する時間はそうないにしても。
もっと自分の仕事に意義を見つけてほしい。毎回の番組に対し、視聴者に向けての意義(楽しませるってことも意義だ)、番組自体としての放送する意義(技術的、演出的な実験、取り組み)、制作者個人としての意義。この3つを特定できるといい。この3つが揃えば自分の仕事にきちんとした目的を持てる。仕事がミッションの高さに近づくのだ。

スペースシャトルの飛び立つケネディ宇宙センターは自然保護区だ。報道陣の詰所の周囲にもペリカンの住む池があり、アリゲーターが眠るように水に潜み、野豚が風に立ち向かって頭を揚げ、鎧をまとう必要のないアルマジロが野原をポコポコ歩いている。しかし、取材者にこの動物は見えない。それは撮影対象ではないから。それ、本当?


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