2020年10月29日
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# 1666




そして済んでしまったので

月曜日からは普通の日常を過ごさないといけなくなった。



いつもどおり朝起きて、
いつもの時間に出かけていく。
いつもと同じように職場へ行き、
いつもどおり仕事を・・・



いや、出勤するやいなや
泣き崩れてしまった。


幸いその場には気心の知れた同僚がひとりいただけだったので、
まぁさぞかし驚かせたとは思うけれど
ひととおり話を聞いてくれた。


話しているうちにどこか他人事みたいに
客観的に捉えて状況を思い出している自分がいて、

人に話すことがセラピーになるとは案外、本当なんだな
などと思ったりした。


でもそれも一時のことで、
ひとりになると じわじわじわ…っと
悲しい気持ちはいくらでも湧いてきた。



家に帰って、いつもどおり「ただいまー」と声に出す。
もちろん誰もいないことはちゃんと認識していて
うっかりいつもどおり、などというわけではなかった。


でも、お葬式から連れ帰ってきたくつしたのエネルギーが
部屋の中にちゃんといてくれるのだと思い、

小さな骨壷に姿を変えたくつしたに
話しかけずにはいられなかった。


ひとりでいると何も手につかず、
かと言って じっとしていることもできず、
そわそわと部屋のあちこちを歩き回った。


まるが帰宅するまでの数時間を
完全に持て余した。



満タンのコップの水を揺らすみたいに
ことあるごとに涙がこぼれた。




まるが帰ってきてからは、くつしたについて
反省することを色々と話した。


あれのせいで急に具合が悪くなったんじゃないか。

いや、そんなことないよ。


ああいうことがよくない影響を及ぼして
知らず知らず病気にさせてたんじゃないか。

そうかもしれない、
だからもう、しない。そういうことは、もう、やめる。


今まで自分を甘やかして、まあいいだろうと
改善しなかった態度、

例えば外でのストレスを家に持ち帰ってイライラと過ごす。
機嫌が悪いときも、そういうネガティブなエネルギーを
撒き散らしてしまうことなど。


この先もたまにはそうなってしまうときもあるかも
と少し頭をよぎったけれど、

いや、もうやめると決めた。
くーちゃん、もうしないよ。





悲しいながらも生活はいつもどおり送れた。

おなかも空いてしまうし、
夜もちゃんと眠くなる。



次の日もそんな感じで過ごしたけれど、
この悲しい気持ちはいつまでも続くんだろうなと思えた。


淡々と悲しい。
ふとしたときに泣いてしまう。


でもそれなりに普通に、気丈に振る舞えた。
そんなに無理してるわけでもなく。





二人の食事の時間。

いつもなら、くつしたにまず食べさせて、
そしてくつしたは大人の食卓をのぞきに来る。


そういうにぎわいもなく
思わず無言になってしまう。


まるも私も ほぼ同時に同じ悲しみがこみ上げてきたと思う。


なんか・・・
さみしいなあ


まるが吐き出すように言った。

合図のように私は瞬間、わーんと泣いた。
二人でしばらく泣いていた。





次の日、家に帰ってから、
何となく昔の写真を見てみた。


くつしたが小さいころのアルバム。
16年前の秋はまだフィルムの使い捨てカメラで撮った写真。
一眼レフで撮った写真もある。


デジタルになってからみたいに闇雲に撮れないので
限られた枚数で、そう頻繁に撮ったものでもない。

しかもピントが甘かったりブレたり暗かったりするものもたくさん。


でも、どれもそのときの情景そのままで
思わず笑顔になる。

もちろん涙も流しながら。



くつしたと暮らし始めたころ、
それはもうかわいくてかわいくて
ずっとずっとこの先もずっと生きていてほしいと思っていた。


猫の寿命を考えると先に死んでしまうのはわかっている。
でも、その中でも最大限に長生きして。
20歳ぐらいまでは生きてよね。
そのころはそう思っていた。


最近、その考えを更新して、さらに10年追加した。

世の中には30歳にもなる猫がいるらしい。
よし、くーちゃんもそれを目指そう。
いま16歳だから、あと15年ぐらいは一緒にいてね。


くつしたにもそう言い聞かせて
一方的かもしれないけど約束して、


そして願いも宇宙に放ったのに。



近ごろ、願ったことが叶うことが増えてきた実感があった。
小さなことで単なる偶然かもしれなかったり、
時間が経って忘れたころにそういえばというようなことだったりだけど、

何かうまいこといくよね、ということが度々あった。


でも、くーちゃんとあと15年いっしょに暮らすという願いは
叶いようがないじゃない。

今までの願いは時間がかかってでも叶ったりしたけど、
時間をかけてこの先どうやって叶うっていうんだよ。


なんでだよ・・・

なんで・・・。



泣きながらも、くつしたの写真をながめることは
楽しかった。


幼いくつしたは顔つきが今と少し違う。
小さな顔に、きゅっと集まった小さなパーツ。
目もつぶらで、耳が大きい。

アルバムをめくって、少し大きくなると
顔立ちも少し大人になって
スッと整った感じになっている。

顔もそのときどきで結構、変わるもんだよなー。




あれ?



そのとき、まだまとまらない閃きのような考えが
私の中に現れた。





まるが帰ってきて、また長い時間くつしたのことを
あれこれと話した。


お互いに思うこと、今日感じたこと、どうやって過ごしていたかなど。


くつしたも一緒に会話に参加しているように
くつしたの骨壷の近くで話した。

小さな骨壷は、幼いくつしたがうちに来たころの大きさと
同じくらい。


また小さいころに戻ったみたいだね。

くーちゃんの魂がこの中にいると思えば
こんな形になっても可愛いね。


もう撫でることのできないくつしたの滑らかな毛のかわりに
骨壷を包んでいる美しい布地を撫でた。


どんな形でもくつしたはかわいい。
それは本心だった。
心からそう思えた。



あ、そうだ
と思って、まだまとまりかけの宙に漂うイメージを
たぐりよせながら言葉に変換して話し始めてみた。




* * *


最近な、いろいろ願い 叶ったりしてたやん?
でも くーちゃんとずっと一緒にいる願いは叶わへんやん!
時間がかかったとしてもどうやって叶うねん!
って思ってん。


でもな、
写真見てて思ったんやけど、
ちっさいくーちゃんって今と顔が違うやん?

ちょっと育ったらまた変わったし、
今はもっと変わって骨壷のくーちゃん。
あ、違うか、骨か。


とにかくな、
姿はそのときどきで違うけど
くーちゃんの魂みたいなんはずっといるやん。


だからな、どうやって願い叶うんやろと思ったらな、

また、形が変わっても一緒にいれるって
ことなんちゃうかなって。


体は入れもんで、耐用年数がきちゃったから
お返しすることになったけど、
また違う入れもんに入って帰ってきてくれるんちゃうかなって・・・



* * *



言い終わるころには
涙が溢れて、嗚咽に近かった。


散らばっていたイメージがまとまって
確信に近い感覚があった。


「そうやん!」

まるがハッとしたように同意した。


全然 毛の色とか見た目がちがったり、
それこそ猫じゃないかもしれん、
犬かも 他の生き物かもしれんけど
中身はくーちゃんで

きっと くーちゃんやってわかるはずやん。


だから こっちのアンテナ磨いて
ちゃんとわかるようにしとかなな。


わかるかなー。
くーちゃんの方で くーちゃんだよって教えてくれるかな。

ちゃんと見過ごさないようにせんとな。



そんなようなことをお互いに口々に喋った。




このときから 私たちは霧が晴れたように穏やかな気持ちになり、
まだふと思い出すと悲しい記憶で涙がにじんだりしたけれど
それよりも希望を持てるようになった。


「会えると思ったら楽しみやなー!」


それまでに それぞれの課題をこなしていかないと。
内面を整えたり、生活を改めたり。

くーちゃんが戻ってきても
前と一緒じゃ、また病気にさせてしまうかもしれないから
ちゃんと直しておかないと。


ちゃんと暮らしていく。



顔もゆるんで 笑いさえもこぼれてくる。

「他の人が見たら、すごく薄情に見えるやろなー」



たった二日間ほどで
私たちのペットロスはあっけなく終了し、

希望と充実感を持って
毎日が送れるようになったのだった。








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Last updated  2021年01月21日 19時42分17秒
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さくらもち市長

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くーちゃんが生まれ変わって帰ってきたときのこと



「3ヶ月すっとばして、ご報告。」





「会ってからと、初日」






生まれ変わりを待つ日々



「二日で終わったペットロス」





くつしたの体の寿命が突然きた


「夏のこと(ご報告)」





** もう少しくわしい版 **
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