ロシア国防省は11月9日、同国の航空宇宙軍とシリアの空軍がシリア領内で合同演習を実施したと発表した。シリア北西部のグレーター・イドリブ地域でテロリスト集団が政府軍に対する大規模攻撃を開始する準備を進めていると伝えられているが、その対策かもしれない。11月9日にはシリアのアル・マシア丘の頂上にあるレーダー施設がイスラエル軍から2度の攻撃を受けたともいう。
また、アメリカやイギリスなど西側諸国を後ろ盾とするイスラエルがガザやレバノンで住民を虐殺するだけでなく、イランやシリアに対する攻撃も激化させて中東の軍事的な緊張を高めていることも意識している可能性が高い。
イスラエル軍は4月1日にダマスカスのイラン領事館を空爆し、
8月5日にはロシアの安全保障会議で書記を務めるセルゲイ・ショイグがイランを訪問してマスード・ペゼシュキアン大統領らと会談。ショイグはイスラエルに対する報復についてイラン側と話し合ったのだろうと見られている。イスラエルは「一線」を超えることでアメリカを戦争へ引き込もうとしていると言われている。
次期大統領のドナルド・トランプは2017年1月にもアメリカ大統領に就任している。その3カ月後、アメリカ海軍の駆逐艦2隻、ポーターとロスは地中海から巡航ミサイルのトマホーク59機をシリアのシャイラット空軍基地に向けて発射したが、その6割が無力化されてしまった。
ロシア製防空システムの能力に興味を持ったのか、その年の10月5日にサウジアラビアのサルマン国王はロシアを訪問、ロシア製防空システムS-400を含む兵器/武器の購入を打診したと言われているが、アメリカの圧力で実現しなかったという。
2018年4月にトランプ政権はイギリスやフランスを巻き込み、100機以上の巡航ミサイルをシリアに対して発射したが、今度は7割が無力化されてしまう。ECM(電子対抗手段)の能力が注目されているが、前年には配備されていなかった短距離用の防空システムのパーンツィリ-S1が効果的だったとも言われている。
この当時、ロシアはシリアやイランへの防空システム供与に慎重だった。アメリカやイスラエルからの圧力があったと言われている。シリアに配備された新しいタイプの防空システムは基本的にロシア軍の基地を守ることが目的だったようだ。
しかし、欧米の支援を受けたイスラエルの攻撃が激しくなり、イランとイスラエルとの戦争が勃発する危険性が高まる中、ロシアはこれまで供与してこなかった兵器も渡し始めた可能性がある。
イラクにしろリビアにしろシリアにしろ、戦争に巻き込んだのはアメリカにほかならない。イスラエルへ供給されている武器の69%はアメリカから、そして30%はドイツから。輸送の拠点はイギリスで、キプロス経由で運ばれている。
中東などでアメリカが侵略戦争を本格化させたのは2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されてから。
ジョージ・W・ブッシュ政権は従属国を従えて2003年3月にイラクを先制攻撃したが、この軍事作戦は思惑通りに進まず、09年1月にアメリカ大統領となったバラク・オバマはムスリム同胞団を中心とする武装集団を編成して代理戦争を始めた。この戦術はオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーが1970年代に考えたものだ。
オバマ大統領は2010年8月にPSD-11を承認、北アフリカからシリアにかけての地中海沿岸国で体制転覆作戦を進め始めた。いわゆる「アラブの春」だ。
オバマ政権は2011年2月にリビア、同年3月にはシリアを攻撃し始めているが、その作戦ではムスリム同胞団のほかサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)を中心とするアル・カイダ系武装集団が投入された。リビアはその年の10月にムアンマル・アル・カダフィ体制を倒し、カダフィ本人を惨殺したが、シリアのバシャール・アル・アサド政権は倒されていない。
アサド政権を倒せないため、オバマ政権はリビアから武器弾薬や戦闘員を移動させただけでなく、新たな戦闘集団を編成している。イラクのサダム・フセイン政権時代に軍人だった人びとが参加したと言われている。
そうした動きを危険だと判断したのがDIA。 オバマ政権が支援している反シリア政府軍の主力はアル・カイダ系武装集団のAQI(イラクのアル・カイダ)で、アル・ヌスラと名称が変わっても実態は同じだと指摘している 。その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だ。
DIAは報告書の中で、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになるとも警告、それがダーイッシュ(IS、ISISなどとも表記)という形で現実になった。2014年1月にダーイッシュはファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧する。
その後、この武装集団は残虐さを演出、アメリカ/NATOの介入を誘う。2015年9月30日にロシア軍はシリア政府の要請で軍事介入、ダーイッシュなど傭兵部隊を一掃していくのだが、本格的な介入は行ってこなかった。
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