小説出ました

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2010.08.28
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二十

「ある人を経由して私のところにやってきましてね」
はじめてみたその石は全く化石のように模様が石の表面に見えるだけのものであった。
いわれれば確かに大きな魚や蛇の鱗のようにも見える。あるいは、知らないものならば植物の葉というかもしれないそれは、龍の体に付く側と思われる場所から外側に向け、放射線状に細くこまかな筋をいくつも伸ばしていた。
その中に年輪を思わせる扇の、先程よりも大分はっきりとした線も見えた。
「間違いなく龍のものだよ」
そういうや、自分で集めたという様々な写真や図を持ち出し比較し始めた。
「ナルホドドンナイキモノニモナイモヨウデスネ。デモソレガリュウデアルショウコニハナラナイノデハ?」
ピーターがそういうや利二は決定的な物を金庫から取り出した。
「今から十七年ほど前に奈良県宇陀郡室生村のとある滝で見つけたものだ」
それは明らかにシュウの父が持っていた化石と同じ大きさ、そして模様を作っていた。
生きたものの鱗が包み紙の上で緑と紺のはっきりとしない色彩の上でエナメルのような光沢を煌めかせていた。
まじまじと見つめる二人に彼は信じがたい事実を伝えた。
「その滝で龍に遭ったんだ」
部屋に張り積めた空気がはじめて聞く二人の体を緊張させた。

全てを聞き終えると、シュウは視点を例の鱗に写した。
歳をとれば物事の本質を敷衍的に捉えるものだと父はいっていた。
それは得てして自分の考えの範疇から出ることはない。故に回りから見れば、導き出された結論そのものが随分自分勝手で独りよがりに見えるであろう。また、なるべく自分が意図した結論に近づけようとさえする。それは都合が良いからである。
結果正しさを欠き、科学的にも根拠のないものとなる。
実証の伴わない利ニの話は、シュウには疑うべきことだらけである。だがどこかで父が探していたロマンや神秘への憧憬めいた感覚があったのも事実である。鱗がそれをあらわしていた。
しばらく考え、父が失踪したことの関連を尋ねようとした。

橙はまた眉をもちあげた。
どうやら例の男の息子だと既にわかっていたようである。
そして今までとは異なる態度をみせた。
「琵琶湖にはね、多くの龍が行き来するの。それに住んでいるともいわれているの。理由は日本のへそだからよ。だから無闇にあらしたり汚したりすると祟られるの。まして勝手に湖底に潜るなんてご法度よ。神聖な遺跡を荒らすなと政府ですらいってるんですから」
シュウはまだ何も話してはいない。自分の父がダイバーなど知るはずもない。なのにこの先読みした話振りはどうだと少しうろたえた。
すると利二が煙草盆を手繰り寄せた。
「まぁ、政府が言うのは本当だが。昔と違って環境保護法が定まって以来琵琶湖への立ち入り規制がきびしくなってな」
彼は補足しながらシュウを見た上でまた彼女の方を向いた。
「しかし橙何か知っているのかな。この方の父上がここへ来て何かをしたとか?」
彼女は口をつむんだまま目だけをシュウに向けていた。それはまるで登校時にみたカガチの瞳のようで冷たい視線であった。
しかも、彼の心の片隅に穴を開けて除き見るような鋭さもみえた。
シュウは彼女が声の主なのかと疑った。
『テレパシー』
彼の脳裏を掠めたのはオカルトに詳しい学校にいた例のアメリカ人から聞いた話である。

現実にいる人がその念道力によって発せられる脳波伝達方法のことでった。
最初彼の話はまるで出鱈目のことと思っていた。ただでさえ今回のことで祟りだの蛇だのと根拠のない信じがたい迷信に翻弄されている。
どうしてと悩み何故父なのだと悔しがった。まだ本当のところ確信にいたってはいないが、父はいなくなった。あの声と共に。それは事実で間違いのない現実である。
(今度はSFか?いい加減にしてくれ)
彼は沸々と沸き上がる懐疑心にうんざり気味の気持ちを覆いかぶせた。
だが今まで父親の痕跡が見えなかった中で、手がかりとして唯一何かを知っていると思われる人物に出会ったのである。
ピーターは利二と橙のやり取りをただ見ていた。
彼女は利二が煙草を積めようとするとその手を叩き、こういった。
「知らないわよ。でも状況判断でわかりそうな推理をしただけよ。蛇、龍の遣いに祟られているんでしょう」
鼻で笑うような素振りを見せながら利二に話続けた。
「ということは利ちゃんがされたようにこの海に呼び寄せられて水中に引きずりこませるってことでしょう。別に実際、何か私が見たわけじゃないわよ」
「しかし彼はまだそうとわかったわけではないだろう?」
「あら鱗と関わっているだけでも同じになるんじゃない」
「すると、彼は既に来ていると?」
「知らないわよ」
明らかに何か隠している素振りだ。シュウでもすぐにわかるものであった。第一潜るという言葉がでた理由が伝えられていない。
彼がその疑問を解決しようと座り直した時再び橙が先に話し出した。
「着ているとしたら、龍にゆかりのある湖岸にいっているはずよ。だったらそこへ行ってみてればいいじゃない」
「うむ、そうだな。それはいいかもしれない」
この家の二人に阻まれて、疑問もそのままに地図を渡されてしまった。
数箇所マークされた跡の中に葛籠尾崎という名前を見た。シュウは数ある印の中でこの文字が一番気になった。理由こそ分からないが、すぐにそこへ行くべきだと感じたのだ。

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Last updated  2010.08.28 08:04:45
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